ssタッタッタ

ショートショート作品

 

 

いつからか”タッタッタ”という音が聞こえるようになった。

 

誰かが後ろから近づいてくる音。

 

タッタッタという音がすると首の後ろがゾクゾクと震える。

 

だからその音がすると僕はいつも後ろを振り返る。

 

振り返ると足音は止まる。

 

タッタッタと音がする。振り返る。音が止まる。

 

僕は見えない誰かといつも「だるまさんが転んだ」をしているような気持ちでいた。

 

 

 

ある日僕は家のソファに寝転がりながら暇を持て余していた。

 

その時、タッタッタという音が聞こえてきた。首の後ろがゾクゾクと震える。

 

僕は試しに振り返らないでいることにした。どうなるのだろう。

 

タッタッタという音がだんだん大きくなってくる。

 

すぐ後ろまで誰かが来た気配がした。

 

そして次の瞬間、ドンッという衝撃があって、僕はゴロゴロとソファから転げ落ちた。

 

「何すんだっ」

 

僕は体を起こしながらそう言った。

 

目の前に僕がいた。

 

ソファの上で寝転がっている僕。

 

「あれ?」

 

僕は顔を下に向けて自分の体を見た。

 

体がない。

 

誰かが僕と入れ変わってしまった。

 

「返せっ僕の体!」

 

僕はそう言ってソファの方へ駆け寄ろうとしたが、何故か前に進めない。

 

踏ん張って前に行こうとしたけど、どうしても前に動けない。

 

試しに横に移動してみると、動ける。後ろにも動けた。

 

僕はソファの後ろに回り込むと、勢いをつけて僕の体に突進した。

 

すると、ソフォの上の僕がグリンッと首を回し、こちらを見た。

 

また動けなくなる。

 

そうか。やっぱりこれは「だるまさんが転んだ」なんだ。

 

今の鬼は、僕。

 

僕の体が目をそらすと、僕は動けるようになった。

 

「またそんなとこで寝てっ」

 

お母さんの声が聞こえた。

 

リビングにお母さんが入ってくる。

 

ソファの上の僕は「おかあさん!」と叫んでお母さんに抱きついた。

 

やめろ。それは僕の母さんだ。

 

それに、もう10歳なんだからお母さんに抱きつくなんて恥ずかしい。

 

お母さんは「なによ、どうしたのよ〜」と言いながら僕の頭を撫でている。

 

「お母さん、お母さん」

 

そう言いながら僕のお母さんに抱きつく僕。

 

それを見ていたら、僕は今僕の体の中にいるものの正体が分かった。

 

あれは、もしかしたら僕の弟かもしれない。

 

僕には僕がまだ小さい頃に天国に行ってしまった弟がいた。

 

ぼんやりとしか覚えていないけれど、小さい僕よりさらに小さい何かが近くにいたことをぼんやりと覚えている。

 

10歳なのにお母さんに抱き上げられた僕。あの中にはきっと、弟が入っている。

 

僕は泣きたくなった。

 

僕は弟の代わりに死んでしまったのだろうか。

 

それから何度か自分の体に近づこうとしたけれど、その度に弟は振り返って、僕は動けなくなった。

 

夜になっても、僕の中には弟が入ったままだった。

 

弟が眠っている隙に僕の体を取り戻せるかもと思ったけれど、弟が眠ると僕も眠ってしまった。

 

 

 

翌朝、弟は僕の体に入ったまま学校に向かった。

 

通学路を歩いている弟に駆け寄ってみたけれど、すぐに振り向かれてしまう。

 

「いい加減僕の体を返せよっ」

 

そう言ってみたけれど、弟には聞こえていないみたいだった。

 

 

 

学校について弟は廊下を歩き始めた。

 

弟は僕の教室を知っているようだった。

 

もしかしたらタッタッタという音が聞こえる前から、ずっと僕の後ろにいたのかもしれない。

 

そんなことを考えていたら、僕の後ろからドスドスと音がした。

 

そして、体の大きなマサヤが僕を通り過ぎて弟にヘッドロックをかけた。

 

乱暴者のマサヤはいつもこうやっていきなり乱暴をする。

 

「痛いっ、離してっ」

 

弟が情けない悲鳴を上げる。

 

やめろよ、情けない声出すな。やり返せよ。

 

と言っても、僕もいつもやり返せないけど……。

 

「ははは」

 

マサヤが弟の首を締めながら笑っている。

 

弟は苦しそうな声を漏らしながら泣き始めた。

 

それを見て僕は、思わずマサヤの体に突進した。

 

ドシンッという衝撃。そして途端に首が苦しくなった。

 

僕はマサヤのお腹に肘鉄をくれてやりながら「弟をいじめんな!」と叫んだ。

 

マサヤはギャッと言って僕の首から腕を離し「なんだよ、おまえ」と吐き捨てて退散した。

 

僕はいつの間にか自分の体に戻っていた。

 

 

 

あれからタッタッタという音は聞こえなくなった。首がゾクゾクと震えることもない。

 

弟はどこかに行ってしまったのだろうか。

 

またいつかタッタッタという音が聞こえてきたらどうしよう。

 

その時はまた、弟と遊んでやってもいいかな。

 

僕はそんなことを考えながら教室に向かった。

 

(了)

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