Gが出た。

Gが出た。

ついに出たのである。
今のマンションに越して3年と半年になるが、初めての会合である。

昨日、部屋に帰り、ドア横の電気のボタンを押そうとしたらその先をなにやら大きな物体が走り去っていった。そしてその物体は浴室のドア向こうへ姿を消した。
この時点ではまだ希望があった。
「あれは、大きめの羽虫かもしれない」
そう、羽虫ならば出現した事があったのである。
羽虫は弱い。「どうしてもっと体の部分に栄養やらなかったの!?」と問いつめたくなるほど彼らは貧弱で、最悪シャドウボクシングに巻き込まれて死ぬ可能性すらある。
しかしGは強い。恐らく私のパンチでは死なない。というかそもそも私の動体視力ではGを捉えきる事ができないだろう。捉えたくないが。
ともあれ、まず電気をつけた私は半開きになっている浴室のドアを閉める事にした。まずすべきは私の動線の確保と、敵の幽閉である。浴室のドアには下に隙間があるが、この際目をつぶるのである。
そんな訳で、まず私は足で浴室のドアを閉めた。足、これが幸いした。
なんと敵はまだ浴室内に侵入したわけではなく、ドアの窪みに潜んでいたのである。ドアが閉まると同時に敵は素早く姿を現し、スタート地点に戻った。つまり、電気のスイッチ付近である。私との距離その実15センチといった所か。
「イヤァダ!」
というような奇声を発し、私は部屋へ逃げ込んだ。そして半狂乱になりながら財布や鍵を投げ捨て、ゴキジェットを手に取った。ゴキジェットは買っていた。万一に備えて買っていた。
少し話は逸れるが、私は対G戦について、かなりの経験がある。
実家の裏が山な為、度々対峙していたのだ。そんな訳で、引っ越しの初期装備に洗濯機、電子レンジ等に加えゴキジェットもノミネートされていた。そしてそのゴキジェットは3年半の時を経て、ついに初陣へと挑む事になったのである。
実家時代、幾つもの戦火をくぐってきた私だったが、ブランクとは恐いものである。はっきりいって私はものすごくビビっていた。が、経験が私の体を動かした。
まずは、視認である。私は先ほど不覚にも敵から目を離してしまった。
そう、対G戦において一番の愚行、それは「見失う事」である。経験者の方々には分かっていただけるだろう。彼らは逃げ足が早く、どこへでも潜り込む為、一度見失う事が致命的なミスとなり、「Gはおるけどどこにおるかわからん」という最悪の事態になるのである。
さて、先ほどのGは電気スイッチからやや移動し、ブレーカーの隅にいた。「イヤァダ!」という声に驚いてやや移動したのだろう。
私 はまず、落ち着いてズボンを履き替えた。スーツ姿で奴に挑んではいけない。スーツは容易には洗えないのだ。次に、以前ハイキング決め込んだ際に購入した、 ハンチング帽を手にとる。素人は頭を無防備にしたままG戦に挑む事が多いが、彼らが飛行能力を兼ね備えているのを知らないのだろうか。彼らは滅多に飛ばな いが、飛ぶ事がある。私は実家時代、丸めた新聞紙を片手に彼らに接近した際、飛び立たれ絶叫した事がある。彼らはピンチに陥いると驚異的な進化をとげ、 「飛ぶ」事を体得するのだそうだ。
さて、話を戻そう。
その時の私の装備をまとめると
頭:ハンチング帽
右手:ゴキジェット
上半身:白い肌着
下半身:トランクス
足:スリッパ
となる。スリッパはもちろん、錯乱した奴が何故かこっちに向かってきた時に踏みつぶす用だ。まさにアサシン装備と言えよう。
さぁ、後はゴキジェットを吹きかけるだけ、となったのだが、ここで問題が発生した。ブレーカー下の床には蓋の開いた段ボールが置いてあり、そこには素麺やパスタ等の乾麺が入れてあった。
ゴキジェットをGに発射した事のある方なら分かると思うが、ゴキジェットを食らった奴らは高確率で落下する。段ボール内への落下。これだけは避けなければならない。
私は左手にクイックルワイパーを装備した。そしてその柄の部分で巧みに段ボールを移動する。
そしてついに、発射した。
ち なみに、段ボールを移動してから発射するまで、30分経過している。その間私がなにをしていたかというと、そう、精神統一である。部屋を行ったり来たりし ながら精神統一をしていた。なにしろ3年半のブランクがあるのだから、いくら万全の装備をしていても、ミスというのはあり得る。
さて、いざ発射すると奴はもの凄い速さで逃げ惑い、落下し、悶えて、死亡した。
あとは、紙に包んでゴミ袋に入れてぽいっとして、戦闘は終了した。
ちなみに、死亡後、ゴミ袋に入れるまで、30分経過している。その間私がなにをしていたかと言うと、そう、精神統一である。裏返って死んでいるのは明白だが、なんとなく足がピクっと動いたような気がするのである。

そんな訳で死闘を制した私だったが、それから今現在まで、視界の隅でなんとなく動いたものがあると、Gだと思いびくっとなる。Gとの戦闘は終わってからも後遺症が残るのだ。(食器棚を開けるのがすごく恐くなる等)

昼間リサーチした所、「ブラックキャップ」というものがすごく利くそうなので、さっそく購入してみた。ホウ酸団子のようなもので、ようは、毒餌である。
今、部屋の近所の喫茶店でこのブログを書いているのだが、目の前のビニールには
「ブラックキャップ」
「ブラックキャップ屋外用」
「ゴキジェットプロ(医薬品)」
「ちりとり」
「携帯用トイレ」
が入っている。G対策は万全と言えよう。
私 の横には二人組のおばちゃんがいるのだが、なんとなく袋の中身を見られているようで落ち着かない。このラインナップはどう見ても「とてもGを恐れている 人」であり、それどころか、「Gを恐れすぎて漏らす可能性がある人」だ。携帯用トイレはG対策とはなんの関係もない。後日遠出する予定があるので、その対 策なのだ。

さて、これを書き終えたらかつての戦場である部屋へ帰らなければいけないのだが、昨日の恐怖が蘇り、中々席を立てない。鍵をあけて扉を開ける瞬間だ。あれが一番恐い。
あと、ブラックキャップを置くのはGが居そうな所が良いとの事なのだが、それではそもそも置くときが恐いではないか。それも帰ってやらねばならない。

憂鬱である。

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