プールを泳ぐ学ランの怪

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 学校の七不思議というものがある。

「音楽室のピアノが一人でに鳴る」だとか「校庭にある銅像が夜に動く」だとか、そんな噂。

 私の通う中学校にもそんな七不思議がある。

 その一つに「プールを泳ぐ学ラン」というものがあった。

 なんでも、夜中に学校のプールに行くと、中に人がいない学ランがプールを泳いでいるというのだ。

「昔、全国大会に行けるくらいの実力を持った水泳部の男子がいたんだけど、大会の日に会場に行く途中で車に轢かれて亡くなっちゃって。それから夜中に学校に行くと、その日その子が着ていた学ランが勝手に泳いでるらしいよ」

「え〜、こわ〜い」

そんなクラスメイトの会話を聞いた私は「どこが怖い話なのだろうか」と思った。

 その子は亡くなった後も練習を続けてえらいな、なんて思ったのだ。

 ある日、私は夜中に家を抜け出して、学校に向かった。

 噂を確かめようと思ったのだ。

 校舎に入りプールに向かうと、なるほど、こんな時間なのにバシャバシャと音が聞こえる。

 プールに近づいて中を見てみると、確かに学ランが泳いでいた。

 クロールで一生懸命プールを往復する学ラン。

 私はそれを見ても、やっぱり怖いなんて全然思わなかった。

 しばらく学ランが泳ぐのを眺めていたが、学ランは疲れを知らないようで、いつまでも泳いでいる。

 そこで私は、持ってきたものをバックから取り出した。

 それは男子用の水着だった。

 だって、学ランじゃどう頑張っても泳ぎにくいと思ったから。

 私は目の前を学ランが通り過ぎるのを待ってから、プールに水着を浮かべた。

 学ランは向こうに行って折り返してくると、水着のところで止まった。

 そして学ランが急に持ち主を失ったようにプカーと浮いたかと思うと、今度は水着がバシャバシャとプールを進み出した。

 私はやった! と満足してプールを後にした。

 これで彼はまた良いタイムを目指せるだろう。

 そして後日、こんな噂を聞いた。

「ねぇ、前に”プールを泳ぐ学ラン”の話をしたじゃない?」

「うん」

「先輩から聞いたんだけど、どうやら今は水着だけが泳ぐようになったらしいよ」

「え〜、なにそれ!」

「でもね、なんだか様子が変なんだって」

「変って?」

「なんだかね、その水着、しばらく泳ぐとプカーっと浮いて、一旦沈むとまた泳ぎ出して、またプカーっと浮いて、を繰り返してるんだって」

「どういうこと?」

「分かんな〜い」

 私はその話を聞いて、しまった、と思った。

 どうやら私が買っていった水着は、彼には少しサイズが大きかったらしい。

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