ss【先行きの杖】

祖父の杖には、ある秘密がありました。

祖父はいつも杖をつきながら家の中を歩いていて、私が一人で遊んでいると自分の部屋に私を呼びました。

私はその瞬間がとても好きでした。

祖父の部屋は、本棚がたくさんあって、たくさんの本がある部屋でした。

祖父は私を部屋に招き入れるとドアを閉め、椅子に腰掛けました。

私はそんな祖父の膝の上にぴょんと飛び乗って、その時を待ちます。

祖父は私を片手で支えると、もう片方の手で杖を持ち、トンっと床を打ちました。

すると、部屋の床、壁、あらゆるものが透明になり、その代わりに部屋全体が星空へと変わりました。

私と祖父は椅子に座ったまま、宇宙の星屑の中に浮かんでいるのです。

祖父が杖を動かすと、星たちが動いて、宇宙を旅しているような気分を味わうことができました。

私と祖父は折に触れ、二人で星屑の中を冒険しました。

そして祖父は亡くなる前、私に向かって「この杖は、ミキちゃんにあげるからね」と言いました。

祖父が亡くなり、杖を譲り受けた私は、今は誰のものでもなくなった祖父の部屋で祖父と同じように杖で床をついてみました。

しかし、私がいくら杖で床をついても星空は現れませでした。

それは祖父の部屋以外、例えば私の部屋で試しても同じことでした。

私にはあの杖を使いこなすことができないのかもしれない、と私は悲しくなりました。

しかし、長い時が流れ、私が祖父と同じくらいの年齢になった時、ふいに星空が現れたのです。

星空が現れたのは、病院で医者から「一年持つかどうか」という類の宣告を受けた後でした。

病院の個室で、私が祖父の杖を本来の使い方で使った瞬間、部屋に星空が広がりました。

そこにはたくさんの星がきらめいていました。

そしてその中に、私は懐かしい輝きを持つ星々を見つけました。

祖父、祖母、父、母、親戚のミユちゃん、たくさんの、友人たち。

私よりも先にこの世から去っていった人たちは、皆おとぎ話で語られるように星になったのだと、私はその時に知りました。

そしてこの杖は、自分がどこの星になるかを選ぶ手助けをしてくれる、いわば先行きを決める杖なのだと理解しました。

私は杖を動かし、自分はどのあたりの星になろうかと考えました。

やはり家族の近くがいいな。

そんな風に星を眺めていると、死への恐怖は消えていきました。

みんな、そこにいるのですから。

私は今、自宅療養に切り替えて家に戻っています。

そして、今度は私が孫をこっそりと部屋に招き、星空を見せて喜ばせているのです。

(了)

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