ss【炬燵の底】

ショートショート作品

 

それはある冬休みの出来事でした。

 

僕は東京から車で3時間の場所にあるおじいちゃんとおばあちゃんの家にやってきていました。

 

僕は田舎で過ごす冬休みが好きで、いつも楽しみにしていました。

 

その日は、お母さんとお父さん、おじいちゃんとおばあちゃんが用事で出かけていて、家には僕とお姉ちゃんと猫のクロだけがいました。

 

僕とお姉ちゃんは二人で居間の炬燵(こたつ)で寝転んで漫画を読んでいました。

 

すると、僕はなんだか炬燵の中がスースーすることに気がつきました。

 

おや? と思い、僕は炬燵の中に顔を突っ込みました。

 

するとそこには驚くべき光景が広がっていました。

 

炬燵の下、本来なら床があるべき場所に穴が開いていたのです。

 

炬燵は掘り炬燵ではありません。

 

「お姉ちゃん、お姉ちゃん!」

 

僕は急いで炬燵から顔を出し、お姉ちゃんのことを呼びました。

 

「なに?」

 

「炬燵の中が変だよ!」

 

「えぇ〜?」

 

お姉ちゃんは漫画を読むのを中断されてちょっと怒っていたようですが、僕が炬燵の中にまた頭を突っ込むと、お姉ちゃんも炬燵の中に顔を出しました。

 

「え、何、これ?」

 

お姉ちゃんも炬燵に開いた黒い穴に目を丸くしています。

 

「この穴、どこまで続いているんだろう」

 

僕がそう言うと、お姉ちゃんは穴の中に手を伸ばしました。

 

「う〜ん……かなり深いよ、これ」

 

「危ないよ、やめなよ」

 

僕はそう言いましたが、好奇心旺盛なお姉ちゃんは今度は穴の中に頭を突っ込みました。

 

「お姉ちゃん!」

 

「うわ、何これ」

 

穴の中に頭を突っ込んだお姉ちゃんが叫びます。

 

「どうしたの?」

 

「あんたもやってみな」

 

お姉ちゃんがそう言いました。

 

僕は恐る恐る炬燵の穴に顔をいれました。

 

すると、そこには驚くべき光景が広がっていました。

 

炬燵の穴の中は、まるで広い宇宙のようでした。

 

宇宙の天井のような場所に、僕とお姉ちゃんの頭だけが飛び出しています。

 

炬燵の下はただの地面のはずなのに、一体これはどういうことなのだろう、と思いました。

 

「これ……宇宙?」

 

僕が聞くと、お姉ちゃんは「わかんない」とだけ言いました。

 

でも、宇宙だったら呼吸が出来ないはずです。

 

僕はこの得体の知れない暗闇が怖くなりました。

 

「お姉ちゃん、もう戻ろうよ」

 

僕がお姉ちゃんにそう声をかけた、その時です。

 

炬燵の布団から猫のクロがぴょこりと顔を出し、そして次の瞬間、クロは炬燵の穴の中に飛び込んでしまいました。

 

「クロ!!!」

 

僕とお姉ちゃんはほぼ同時に叫びました。

 

そして、驚きで動けなかった僕とは対照的に、お姉ちゃんは炬燵の中で起き上がり、そしてクロの名前を叫びながら炬燵の穴に落ちていきました。

 

「お姉ちゃん!!」

 

僕は叫びながら手を伸ばしましたが、お姉ちゃんには届きませんでした。

 

「お姉ちゃん、お姉ちゃーーーん!!」

 

僕の叫び声が暗闇の中にこだましました。

 

クロと一緒に暗闇に落ちていったお姉ちゃんの姿は、もうすでに見えなくなっていました。

 

僕は炬燵の中から抜け出し、一体どうすればいいのだろうと考えました。

 

僕にはあの中に入ってお姉ちゃんとクロを追いかける勇気はありません。

 

僕は早くお父さんたちが帰ってこないかな、と思いました。

 

僕だけではどうすることもできません。

 

僕はもう炬燵の中を覗くのが怖くて、居間の中をうろうろと歩き回りました。
と、その時です。

 

廊下の方から「ニャア」という鳴き声が聞こえました。

 

驚いた僕が廊下に出てみると、廊下にクロがいました。

 

「クロ!? クロ!! おまえ、どうして……」

 

そう言いながら僕はクロの体を触りました。

 

クロは少し喉を鳴らし、僕の手に体を擦り付けてきます。

 

クロは、間違いなくクロでした。

 

しかし、クロは、さっき炬燵の穴に落ちて……。

 

「どうしたの?」

 

僕はその声に飛び跳ねるほど驚きました。

 

みると、二階に通ずる階段の上から、お姉ちゃんが僕を見下ろしています。

 

「お姉ちゃん……? どうして……?」

 

「何……どうしたのよ」

 

お姉ちゃんは階段の上から僕のことをじっと見つめているようでしたが、階段の上は薄暗く、顔は見えませんでした。

 

「お姉ちゃん、さっき、炬燵の中に入って、それで……」

 

「何言ってるの。私はずっと上で寝てたわよ。あなたが騒ぐから起きちゃったんじゃない」

 

お姉ちゃんはそう言って、じっとその場に立っていました。

 

そんなはずはありません。

 

さっき、確かにお姉ちゃんは炬燵の穴に落ちていきました。

 

そこにいるのは……本当にお姉ちゃんなのでしょうか。

 

僕はなんだか怖くなり、一人で居間に戻りました。

 

そして恐る恐る炬燵の中を確認しました。

 

しかしそこにもう穴はなく、ただ普通の炬燵と床があるだけでした。

 

それからしばらくして、お父さんたちが帰ってきました。

 

そしてそれから僕はみんなと一緒に晩御飯を食べました。

 

そこには当然お姉ちゃんもいて、お姉ちゃんはいつもと変わらない様子でご飯を食べていました。

 

他の家族もみんな普通にお姉ちゃんと話をしています。

 

しかし僕は、これは本当にお姉ちゃんなのかな、と思っていました。

 

本物のお姉ちゃんは、やっぱりあの時炬燵の穴に落ちていってしまったのではないか。

 

そして今ここにいるお姉ちゃんは偽物なのではないか。

 

冬休みが終わり、僕たちは家に戻って元の生活に戻りました。

 

お姉ちゃんは今まで通りに学校に通い、家で生活をしています。

 

しかし僕は、やはりあの日から何かお姉ちゃんが変わってしまったような、そんな不気味さを感じているのです。

 

 

 

追記

 

この文章を書いてから五年ほど時が流れたが、先日この文章を読み返しているところを姉に見られてしまった。

 

いつの間にか後ろに立っていた姉は、僕の書いたこの文章を読むと、「ふっ」と笑って去っていった。

 

あの笑いが何を意味するのか僕には分からない。

 

しかし、やっぱり姉には何かがあったのだ。

 

そしてそれを姉は知っているのだと思う。

 

あれから何度か祖父母の家に帰省したが、何回覗いてみても炬燵の中にもうあの黒い穴はなかった。

 

(了)
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