ss【TSUMORIサプリ】 

体重計に乗って、いつもと変わらない数字にため息をつく。

これまで私はあらゆるダイエット法を試みた。

しかし痩せない。

いや、痩せはするのだけれど、いつの間にか元の体重に戻っている。

何か根本的に変えなければいけない。

そんな風に思っている頃だった。

夫の出社を見送ったすぐ後に、インターホンが鳴った。

夫が忘れ物でも取りに来たのかもしれないと思ったのだが、インターホンの画面には見知らぬ男が立っていた。

「どちら様ですか?」

私がインターホン越しに尋ねると、男は「おはようございます。少しお時間よろしいですか?」と言った。

あぁ、何かの営業かと私がインターホンのスイッチを切ろうとした時、男は「奥様。最後のダイエット法をお試しいただけませんか」と言った。

最後のダイエット法……?

なぜこの男は私が今ダイエット中ということを知っているのか。

「今までやられてきたダイエットは全て中途半端な結果した残せなかったかと思いますが、私がご紹介するダイエット法は絶対です。必ず痩せさせます」

まくし立てるような男の様子に、私は少しだけ話を聞くことにした。

もちろん、話を聞くだけのつもりで。

しかしその日の夜。

私は男から受け取ったサプリを飲んでいた。

男が紹介してきたサプリは「TSUMORIサプリ」というものだった。

このサプリを飲めば「寝るだけで痩せられる」と男は言っていた。

なんでも、このサプリを飲むとある夢を見るらしい。

その夢とは「運動会」である。

夢の中で運動会に参加して思い切り運動をすることで、脳が本当に運動をしたと勘違いをし、体中の脂肪を燃焼させる。

その結果、痩せることができるという。

私は半信半疑でTSUMORIサプリを飲んだ。

まずは1ヶ月。無料お試し。

あらゆるダイエット法に挫折してきた私にとっては、半分遊びのような行動だった。

眠りについてから驚いた。

夢の中で、私は小学校のグラウンドに立っていた。

紅白帽を被り、体操服に身を包んでいる。

そして半ば強制的に徒競走や玉入れ、リレーなどの競技に参加させられることとなった。

私は子供たちに囲まれて必死に体を動した。

目覚める頃には、体は動かしていないはずなのに思い切り運動をした後のような充実感を覚えていた。

それから私は毎晩のように運動会に参加した。

運動会は団体で行う競技も多く、さらに周りにはエネルギーに満ち溢れた子供達ばかりなので、私はいつも思い切り運動を楽しむことができた。

そして、TSUMORIサプリを飲むようになってから1ヶ月も経たないうちに効果は現れた。

なんと体重が3キロも減っていたのだ。

1ヶ月で3キロというのは驚異的な数字である。

私は喜び勇んで夫に「3キロも痩せた」と報告をした。

しかし夫の反応は「あんまり変わったように見えないけど」という冷ややかなものだった。

その反応に腹が立った私はサプリを売ってくれた男性に連絡を取って「もっと痩せられるサプリはないか」と尋ねた。

「では、もっと刺激の強い運動にしましょう」

そう言って男は新しいサプリを売ってくれた。

サプリには「逃走プログラム」と名前がついている。

どういう意味だろうと思いながらも、私はさっそくそのサプリを飲んで眠りについた。

夢の中で私はいつも運動会をしている小学校の、教室の中にいた。

いつもはたくさんいる生徒たちも先生たちも、誰もいない。

窓を開けて外を見てみる。どうやら今は夜のようである。

男が言っていた、もっと刺激の強い運動とはどういう意味だろう。

と、突然教室の扉が開いた。

驚いて振り向いた私は、扉のそばに誰かが立っているのを見た。

それは男のようだった。

暗闇の中で男の影がゆらりと動く。

その手にナイフが握られていた。

次の瞬間、その人影が私に向かって来た。

「きゃあぁあ!」

私は悲鳴をあげながら教室を出た。

廊下を闇雲に走り、男から逃げる。

後ろから男が追いかけてくる気配がある。

誰もいない夜の学校を全力で走った。

用務員室に逃げ込み、机の下に身を隠した。

追って来た男は用務員室に入って来たが、しばらくすると去っていった。

目を覚ますと、私の体は運動会に参加していた時とは比べ物にならないくらいの充実感に包まれていた。

そして、私はその日だけで1キロ痩せた。

このままこのサプリを飲み続ければ10日後には10キロも落とせる。

そうすればいくらあの鈍い夫でも私の変化に気がつくだろう。

10日後、10キロ痩せた私はまた夫に言った。

「10キロ痩せたわ」

夫はその夜、私を抱いた。

久しぶりに見た夫の体は思った以上に引き締まっていて、私たちは出会った頃のようにお互いを求め合った。

その夜。

私はまたサプリを飲んで眠りについた。

夜の学校で、私はまた男から逃げた。

男から逃げ続ければ私は、もっと痩せることができる。

もう数字が行ったり来たりするだけの体重計とはお別れだ。

ふと、男の足音がしないことに気がついた。

振り返ったが、男の姿はない。

いつもは後ろを追いかけてくるのに。

どこに行ったのだろうか。

と、背後から風のような気配がして、後ろから誰かに頭を押さえつけられた。

私は悲鳴をあげる間もなく引き倒される。

ナイフが月光で怪しく光る。

にやりと笑う男の顔が見えた。

ベッドに寝ていた男は隣で寝ていた妻の悲鳴で目を覚ました。

妻は目をかっと見開き息絶えている。

男はベッドを抜け出し、警察を呼んだ。

「妻が、妻が死んでいる」

警察は間も無くやってくるだろう。

男は警察が来る前に、始末するべきものがあることに気がついた。

男が始末したのは、あるサプリだった。

そのサプリには「TSUMORIサプリ」と名前が付いていて、そこには「追跡プログラム」の文字が刻印されていた。

(了)
あとがきラジオはこちら

スポンサーリンク

コメントしてくださるんですか? ヒョエエー!

メールアドレスが公開されることはありません。