ss【つがいのビン】

酒好きの友人から不思議なビンをもらった。

二本のビンを手渡した友人は「これはつがいのビンだから」と言った。

「つがい?」

「そう。このビンは二本で一つ。片時も離れさしちゃいけない。いつも一緒に置いておかないとダメだ」

友人はそう言って、ビンの保管方法を私に教えてくれた。

二本のビンはなるべく薄暗い場所に置いてやるといいらしい。

そして、必ず二本をセットで保管しておく。

すると、一夜明けるごとに少しずつ酒が溜まっていくそうだ。

その酒がこの世のどんな酒よりもうまいらしい。

ただし、と友人は付け加える。

「夜のうちは決してビンを見ちゃダメだ」

「なぜ?」

「そりゃおまえ。おまえだって夜、女性とベッドにいるところを見られたくないだろう?」

そう言って友人はニヤリと笑った。

友人の言いつけ通りにビンをダイニングにある食器棚の中に置いてしばらくそのままにしておいた。

すると、いつの間にか空だったビンに酒が溜まっている。

酒は一方のビンにしか溜まっておらず、友人いわくそちらのビンが「メス」ということだった。

私はメスのビンから少しだけ酒をグラスに注ぎ、恐る恐る口をつけてみた。

その酒は、確かにこれまで飲んだどんな酒よりも豊潤で、うまかった。

私はビンの中に溜まった酒をたまに取り出しては晩酌の最後の一杯にするのを何よりも楽しみにするようになった。

そんなある日。

私は夜中に目が覚めてしまって、水でも飲もうとダイニングに向かった。

すると、寝る前酒を飲んだ時に閉め忘れたらしい食器棚の扉が少し開いていた。

しまった、と思い棚の扉を閉めようと近づきかけたところで、私は棚の中にある二本のビンを見てしまった。

ビンは光もないのにその体が妖しく輝き、そして”オス”のビンがかすかに揺れた。

ガラスが擦れたようなキィンという高音が響き、その音はメスのビンに吸い込まれていった。

その瞬間、メスのビンの中にある酒の量が、わずかに、かさを増したように見えた。

私は見てはいけないものを見たような気がしてゆっくりと後ずさろうとした。

しかし、後ろに引いた足を下ろした時、フローリングがわずかに鳴った。

気づかれた、と思ったその時、戸棚の中からピシッと音がした。

見ると、二本の並んだビンにヒビが入り、そして、メスのビンからは酒が微かに滴り落ちていた。

「それはもうダメだよ。あれほど見るなと言ったのに」

ビンが割れてしまったことを報告すると、友人はそう言った。

「資源ごみの日にでも捨てるんだね」

そう言われたが、私はなんとなくあのビンをそのまま捨てる気にはなれずに、二本とも粉々に砕いて破片を混ぜ、それを庭の土の中に埋めた。

それから、音のない夜に耳をすますと土の中からシャリシャリとガラス片がこすれあうような音が聞こえるようになったが、私はもう庭の方を覗き見ることはしない。

(了)

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