あるところに、美里という女の子がいた。
彼女の趣味はカフェ巡りだった。
ある日、彼女は立ち寄ったカフェで面白い電球を見つけた。
その電球から溢れる光りは温かく、店内には落ち着いた雰囲気が漂っていた。
美里はカフェのマスターに電球のことを聞いた。
「この電球、素敵ですね」
「これはりんご電球というものですよ」
マスターはそう答えた。
「りんご電球……ですか」
「はい。あるりんご農家の人が、りんごを採った後の木に洒落で電球のソケットをつけてみたらしいんです。そうしたら木からツルのようなものがするすると伸びて、電球になったんだそうです。試しに電球をコンセントにつないで電気を通してみたら光った、そんなことらしいです」
「へぇ……なんだか、独特な光りですよね」
「えぇ。自然由来の光に近いというので、ある一部の界隈で人気があるらしいですよ」
マスターの説明を聞いて、美里はりんご電球に魅せられた。
美里は自分でもりんご電球を作ってみたいと思い、りんご電球を作っているりんご農家に弟子入りした。
行動は早いほうなのだ。
美里はたくさんりんご電球を作って、売った。
一年が過ぎ、三年が過ぎ、十年が過ぎた。
美里の夢は、日本中の電球をりんご電球にすることだった。
美里は生涯を賭けてその活動に尽力した。
だがその思いは達せられない内に美里はこの世を去ることになる。
美里の夢は達せられなかったが、美里のおかげで沢山の人がりんご電球を使うようになったのは事実である。
そして美里が亡くなった数十年後、突然りんご電球の人気が爆発した。
ある学会の研究により、りんご電球を使っている人の寿命が、そうでない人の寿命よりも長いことが判明したのである。
その理由はりんご電球が発する自然光がストレスの軽減につながっているからだそうだ。
結果的に爆発的にりんご電球は日本中、いや世界中に普及した。
美里の撒いた種が長い時を経て芽吹いたのだ。
果物のりんごは栄養価が高いことで知られているが、りんご電球にも「りんごで医者いらず」ということわざはふさわしいのかもしれない。