小狐裕介の毎日SS

体育館の亡霊

 近所に面白い体育館があると、ゲートボール仲間から教えてもらった。

 なんとその体育館は「体が若返る体育館」らしい。

 体育館の中に入ると自分が一番活発だった頃の体の動きに戻るそうだ。

 私は仲間たちと一緒にさっそく体育館に行ってみることにした。

 室内履きに履き替えて体育館に入ると、体が嘘のように軽くなった。

 昔、学校代表のバスケット選手だった頃のように軽快に動ける。

 私は嬉しくなって、体育館中を駆け回った。

 しかし、運動を終えて体育館を出た途端、体中がガタガタになった。

 やはり体が元に戻ったわけではないらしく、無理をしていたらしい。

 程々にしないとな、と思いながら体育館を後にした。

 ある日のこと。

 その日も仲間たちと一緒に体育館でバスケットに興じていた。

 体は疲れを知らないのだが、それも体育館にいるからだと二時間ほどでバスケットをやめて片付けを始めた。

 私が体育館の用具室でボールをしまっていると、誰もいないはずの用具室で物音が響いた。

「……誰かいらっしゃいますか?」

 私はそう声をかけたが、返事はなかった。

 用具室の鍵を閉め、受付に鍵を返した私たちは「あいたたた。体育館を出るとすぐこれだ。これさえなければなぁ」なんて言い合いながら帰路についた。

 一週間後、再び仲間と一緒に体育館にやってくると、何やら騒がしい。

 体育館の職員さんたちがあーだこーだと揉めているのだ。

 私は先にやってきていた仲間の一人に「どうかしたのかい」と尋ねた。

「いやなぁ、なんでも、この体育館にずっと隠れていた人が見つかったらしいのよ」

「えぇ?」

「帰りたくなくて、用具室に隠れとったんだとさ」

 すると、この前聞いた物音は……。

 確かに、気持ちは分かる。

 この体育館に来て、昔と同じように自由に体を動かせるのはとても楽しい。

 しかし私たちは重ねてきた年月を否定してはいけないのだ。

 体の変化も受け入れる必要がある。

 体育館の職員さんたちは、その隠れていた人物の処遇について悩んでいるらしい。

 その人物を体育館の外に出すと、あまりの反動で命が危ないのではないか、と。

 結局その日、体育館は臨時休業となったので私たちはそれぞれ家に帰ったのであった。

 後日聞いた所によると、その人物はそのまま体育館の中で用具係やスポーツ競技の審判などをすることになったらしい。

 体育館は前と変わらず営業しているのだが、私たちはなんとなくあれからあの体育館には行っていないのである。