小狐裕介の毎日SS

うたた猫

 最近、ちょっと不眠症気味である。

 寝ようと思うと寝れず、眠れないと思うと焦って余計眠れないのだ。

 そんな私に、同僚が面白いサービスを紹介してくれた。

「うたた猫」というサービスである。

 なんでも、そのサービスに申し込むと猫が毎晩やってきて寝かしつけてくれるらしい。

 無類の猫好きな私はさっそく申し込みをすることにした。

 申し込みはインターネット上で完結するらしい。

 住所や氏名の他に「どのような種類の猫がお好みですか(柄等)」「どこまでおうちに入っていいですか」などといった質問項目にも答えを記入して申し込んだ。

 そして今夜、いよいよ猫ちゃんがうちにやってくることになった。

 私はドキドキしながらベッドで目をつぶっていた。

 すると、チリン、と鈴の音が聞こえた。

 目を開けると、ベッドの上で一匹の茶トラの猫が丸くなっている。

 わ〜、本当に来てくれた! かわいい……!

 猫は私と目が合うとゆっくりとまばたきをした。

 猫がゆっくりまばたきをするのは猫流の挨拶らしい。

 猫ちゃんの姿を見ていると、なんとも言えない安らかな気持ちになってきて、私は眠りについた。

 朝起きると、もうあの茶トラの猫はいなかった。

 一体どこから入ってきて、どこから出ていったのだろう。

 猫は神出鬼没だというが、それにしても不思議だ。

 うたた猫のサービスを申し込んでから、私はいつでもちゃんと眠れるようになった。

 本当にこのサービスを使ってよかったと思う。

 でも、私には一つだけ不満があった。

 猫ちゃんがやってくると物の数秒で眠くなってしまうので、猫ちゃんと遊べないのだ。

 そこで私はダメ元でうたた猫のカスタマーセンターに連絡し、「あのぉ……いつも来てくれる猫ちゃんに会いに行ったりはできないですよね」と聞いてみた。

 するとカスタマーセンターのお姉さんは意外にも「大丈夫ですよ」と答えた。

「本当ですか!?」

「えぇ。ただ……ご期待に添えるかどうか分かりませんが」

 一体どういうことだろう。

 もしや、実は猫ちゃんが実在しないとか……?

 私は不思議に思いながら、お姉さんから聞いた場所に行ってみることにした。

 お姉さんが教えてくれた場所はビジネス街の一角だった。

 受付で「うたた猫のサービスを使っている者です」と告げると、中に案内される。

 そこにはたくさんの猫ちゃんがいた。

 なんだ、そういうことだったのか。

 お姉さんが「ご期待に添えるかどうか分かりませんが」と言った意味がようやく分かった。

 そこにいたうたた猫のスタッフである猫ちゃんたちは、いつも私たちの為に働いてくれているからだろう、今はみんなすやすやと眠っていたのだった。