小狐裕介の毎日SS

昨日修正

 昨日を修正してくれるところがあるらしい。

 ただし、記憶だけ。

 それも”昨日の記憶”だけである。

 なんでも、まだ脳に定着していない、生の記憶しか修正できないそうだ。

 私はその怪しげな場所に行ってみて、嫌な記憶を度々塗り替えてもらっていた。

 嫌なことがあった時、その代替の記憶で上塗りしてもらう。

 そうすることで、何度も嫌なことを思い出してくよくよしてしまいがちな癖を克服することができた。

 料金も、まぁ良心的で、便利なサービスである。

 家に帰ると、息子の隆太が言った。

「ママー、クイズ!」

 隆太は最近クイズにハマっている。

 テレビのクイズ番組を食い入るように見つめ、私と夫に問題を出してくるのだ。

「昨日、お夕飯は何を食べたでしょうか?」

「昨日?」

「そう! 脳のトレーニングにいいクイズなんだって」

「へぇ。昨日なら覚えてるよ」

 昨日は夫の食事当番で、確か……さんまを食べたはずだ。

「さんまだよね。焼いたさんま、美味しかったなぁ」

「ぶーー!」

 隆太が楽しそうに笑った。

「え?」

 夫が苦笑いをしながら言う。

「おいおい。昨日は初挑戦したロールキャベツを、美味しい美味しいって食べていたじゃないか」

 どうやら、昨日の記憶を修正していたらしい。

 そのロールキャベツは一体どんな味だったのだろうか……。