小狐裕介の毎日SS

想い人射的

 ふらっと散歩をしていると、怪しげな縁日の屋台を見つけた。

 その看板には「想い人射的」と書いてある。

 へぇ、射的なんて珍しい。

「射的を当てたら、その人に会えるよ」

 屋台の親父さんがにやりと笑う。

 射的の的は芸能人の写真である。

 僕はお金を払い、射的をやってみることにした。

 射的は昔から得意なので、当てる自信がある。

 好きな女優の的めがけて弾を放つと、見事命中した。

「おめでとう、お兄ちゃん。近いうちに彼女に会えるよ」

 親父さんはまたにやりと笑った。

 まぁ、僕だって本気にしていたわけじゃない。

 だけど、なんと数日後に本当に会えたのである。

 道でちょっと肩が当たって一言二言言葉を交わしただけだが、会えたことに違いはない。

 僕はまたあの射的の屋台に向かった。

 今日は自分で写真を持ってきている。

 去年亡くなったばーちゃんの写真だ。

 親父さんに「自分で持ってきた写真でもいいですか?」と聞くと「あぁ、いいよ」と快諾してくれた。

 歴史上の人物とかも考えたけど、やっぱり一番会いたいのはこの人だ。

 親父さんに料金を支払い、弾を放つ。

 見事命中した。

 枕元に立ってくれるのかなぁなんて思いながら、帰り道を歩いていると、トラックが迫ってきて……。

 僕はあの世らしき場所でばーちゃんと再会した。

「危ないことするな!」

 ばーちゃんはものすごい勢いで怒って、ぽかりと僕の頭を殴った。

 
 はっと目を覚ます。

 そこは病院であった。

 退院した後に行ってみると、もうあの射的の屋台はなかった。