小狐裕介の毎日SS

霧の中の子供

 私が河川敷を一人歩いていると、もやもやと霧が立ち込めていた。

 そして、その中に赤ん坊がいた。

 なんだろう……あれ。

 不思議に思った私が霧を見ていると、霧の向こうから女の人が走ってきた。

 女性はランニング中らしく、霧には気づかない様子でこちらに走ってくる。

 大丈夫かな、と思っていると、女の人が霧の中に入った。

 すると、霧の中の赤ん坊が女の人の体にすーっと入っていった。

「あっ」

 私は思わず声を上げたが、女性は何も気づかない様子で走り去っていった。

 今のはなんだったのだろう……。

 そんな出来事を忘れかけていた頃、私はまた河川敷を歩いていた。

 すると、目の前からお腹の大きな女性が歩いてきた。

 それは、あの日ジョギングをしていた女の人だった。

 もしや……私が見たあの霧と赤ん坊は魂のようなものだったのだろうか。

 
 数日後、私が駅を歩いていると、駅のベンチで同じ学校の友達がボケーッとしていた。

 口から何かもやもやとしたものが出かかっている。

「おはよっ!」

 私が後ろから友達に声をかけると、友達の口から、ずるん! と何かが抜け落ちた。

 え!?

 友達は白目を向いている。

 や、やばい!

 私は慌てて友達の口から出た魂を戻した。

 すると友達は私を見て「あ……おはよう」なんて言ったのである。

 それから私は注意深く周りを見るようになり、そして沢山の人の魂が抜けそうな状態であることに気づいた。

 電車の中、授業中、あらゆる場所で人から魂が抜けそうになっている。

 あんなに無防備じゃ、死神か何かが来たら一環の終わりだ。

 なんとかしなきゃ……と私は思った。

***

 数年後。

 私は自分の特性を活かした仕事につき、ついにテレビ出演を果たした。

 その番組の題名はこうなっていた。

『今急増中!? の口呼吸を直して鼻呼吸に切り替える方法を呼吸インストラクターに学ぶ』