お母さんからメールが来た。
「開花貯金を始めたの」
そんなメッセージと共に花の写真が添付されている。
久しぶりだったので、私は電話をすることにした。
「メール見たよ。綺麗な花だね」
「そうでしょ〜」
「でも、開化貯金、って何?」
「あら、知らないの。特殊な土に花を植えてね、その土にお金を埋めると花が咲くのよ。お金にまつわる欲望を土がエネルギーに変える、とかなんとか言ってたわねぇ」
おかしな土もあるものだな、と思いながら、私はお母さんと世間話をした。
後日、私は飛び込みの営業で、ある豪邸を訪れていた。
豪邸には老人が一人で住んでいるらしい。
その庭を見て、私はぎくりとした。
庭いっぱいに、お母さんから送られてきた写真に映っていた花が咲き誇っていたのだ。
ということは、この庭の土には……。
「どうかしましたか」
突然背後から老人に声をかけられて、ぎくりとした。
「い、いいえ」
私はとっさにそう答えて、商品の説明を始めた。
夜中。
私はまたあの豪邸に向かった。
昼間確認した限りでは、ここに監視カメラはなかった。
それに相手は老人の一人暮らし。
もし見つかっても、なんとか逃げられるだろう。
私は音を立てないよう、慎重に庭に侵入し、土を掘り起こした。
お母さんは「十万円貯金したら、やっと花が咲いたのよ〜」と言っていた。
とすれば、ここには何百万円ものお金が埋まっているはずである。
しかし、いくら土を掘り起こしても、お金は見つからなかった。
どうして……?
「いくらさがしても見つからんよ」
後ろから声がした。
振り向くと、老人が立っている。
「ずっと見張っていたんだよ。あんた、”いいえ”って言ったろう」
「え……?」
「この庭の花を見たらな、普通は”すごいですね”とか”なんていう花ですか”とか言うもんだ。しかしあんたはとっさに話題を反らした。だから、知っているな、と思ったんだ。確かにここの土は開花貯金のもので、咲いている花もそうだ。しかし栄養は金ではないのだ。あんたならよく知っているだろう。金なんかより、よっぽど強い欲望の力を持つものを。え? そうだろう」
老人は月を背後にして何かを振り上げた。
それは大型の刃物のようなもので、その切っ先が月の光でぎらりと光った。
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