鏡に自分を映すと自分のスペアができる保険があるらしい。
その名前を「鏡面生命保険」と言うそうだ。
鏡面生命保険に入っておけば、もし仮に自分が死んでしまっても生き返ることができるのだという。
鏡面生命保険の保険料は法外なものだったが、俺は加入してみることにした。
保険会社の人間によると「スペアは鏡の中の自分なので、生き返った後は左利きになってしまいます」とのこと。
そんなことはどうだっていい。
保険会社の人間からそれ以外の注意事項について説明を受ける。
鏡面生命保険に加入したら、定期的に保険会社にある鏡に自分をコピーしなければならないらしい。
そうしないと最新の自分が保てないらしいのだ。
あまり放置しすぎると劣化して鏡の中の自分が死亡してしまうらしい。
そんな説明を受けて鏡面生命保険に加入した俺だったが、結局都外へ引っ越したことをきっかけにあまりコピーを作りに行かなくなってしまった。
コピーを取るようにという督促の手紙が届いたが、俺は無視をしてとりあえず口座から保険料だけを支払っていた。
そんなある日。
俺は妻と喧嘩をした。
ちょっとした口論は大喧嘩に発展して、俺は思わず妻を突き飛ばし、その結果……妻はぐったりと動かなくなってしまった。
どうしたらいいのかと狼狽した俺は、あの鏡面生命保険のことを思い出した。
そうだ、今ここにいる俺は死んで、鏡面生命保険にいる鏡の中の自分で生き返ればいい。
整形をして、全く新しい自分として生まれ変わろう。
俺はすぐに保険会社に電話をかけた。
「まだ俺のコピーはあるか!?」
「ありますけど……」
「よし! 死んだら入れ替わるんだな?」
「えぇ」
よし。
この俺は確実に死んだことにするために、俺は書斎で遺書を書いた。
これを置いて、今の自分で死んで、生まれ変わったら逃げる。
「……あ……なた……」
突然妻の声が背後から聞こえ、俺は叫び声をあげた。
そこに頭から血を流した妻が立っている。
生きていたのか!?
「あなた、救急車を……」
「あ、あぁ、分かった!」
俺は大急ぎで救急車を呼んだ。
数日後、退院した妻の代わりに夕食を作った俺は、妻と一緒に料理を食べながらつくづく早まらなくてよかったと思った。
鏡面生命保険と言っても、確実に生まれ変われる保証はないのだ。
「お皿くらいは洗うよ」
妻がそう言ってシンクに立った。
俺はソファでくつろぎながら、ふと何か違和感を覚えた。
なんだろう。
妻の様子が、いつもと違ったような。
そこで俺はようやく気がついた。
そうだ、違和感を覚えたのは妻の”箸の持ち方”だ……。
「あなた」
振り返ると、そこに妻が立っていた。
妻の左手には包丁が握られており、それがゆっくりと振り上げられ……。
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