三日間の恐怖

ショートショート作品
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 ある日曜日。

 妻と遅めの朝食を食べていると、呼び鈴が鳴った。

 モニターを見てみると、お隣のご夫婦が二人で玄関先に立っている。

 どうしたのだろう。

 インターホンで「はーい」と返事をすると「ご挨拶したいことがありまして」と言う。

 あらら、引っ越しかな。

 玄関の扉を開けると、お隣の二人が言った。

「実は、最近子供が生まれまして。泣き声などでご迷惑をおかけしてると思いますので……」

 そう言って小さなビニール袋を差し出す。

 中にはお米が入っていた。

 子供が生まれたなんて、全然気づかなかった。

「おめでとうございます。お気遣いなく。赤ちゃんは寝るのが仕事ですから」

 そんなやりとりをして扉を閉める。

 妻にいきさつを話して、もらったお米を渡す。

 妻は可愛く包装されたお米を見て顔を綻ばせた。

「めでたいね。でも、泣き声全然聞こえないね」

「そうだな。このアパートは比較的防音がしっかりしてるから」

「夏になったら窓を開けるから、聞こえるかもね」

 嬉しそうに言う妻を見つめながら、うちにもいつか子供ができたりするのだろうか、と考える。

 まだもう少し先だとどこかで思っているが、その時は突然訪れるのかもしれない。

 子供が生まれたら、世話で大変になるだろうが、今のうちに色々と準備をしておこうかな。

 ……ん?

 その時、なんだか違和感を覚えた。

 違和感の正体を探ろうとするが、分からない。

 一瞬、何かが頭をよぎったのだが……。

 分からないものは仕方ないので、朝食の続きを摂ることにした。

 次の日。

 出勤する時に、ふとお隣の車を見ると、チャイルドシートがついていた。

 へぇ、最初は赤ちゃんを寝そべらせるような形に取り付けるんだ。

 首が座っていないからかな。

 そんなことを思いながら会社に向かった。

 その次の日。

 会社から帰ってくると、妻が青い顔をしていた。

「どうしたんだ」

 私が聞くと、妻は真っ青な表情のまま答えた。

「今日、見ちゃったの。お隣の奥さんとすれちがった時に。おくるみっていうのかな。それに赤ちゃんを抱いて、なんだか急いでいたの」

「へぇ、熱でも出したのかな」

「そうじゃないの。おくるみにくるまれた赤ちゃんを見たら、人形だったのよ」

 その時、僕は気がついた。

 あの時の違和感。

 今考えると、最初からおかしかったのだ。

 産まれたばかりの赤ちゃんがいるはずなのに、お隣の二人は夫婦揃って挨拶に来た。

 産まれたばかりの赤ん坊がいるなら、二人一緒には来れないはずではないのか……。

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