ある日曜日。
妻と遅めの朝食を食べていると、呼び鈴が鳴った。
モニターを見てみると、お隣のご夫婦が二人で玄関先に立っている。
どうしたのだろう。
インターホンで「はーい」と返事をすると「ご挨拶したいことがありまして」と言う。
あらら、引っ越しかな。
玄関の扉を開けると、お隣の二人が言った。
「実は、最近子供が生まれまして。泣き声などでご迷惑をおかけしてると思いますので……」
そう言って小さなビニール袋を差し出す。
中にはお米が入っていた。
子供が生まれたなんて、全然気づかなかった。
「おめでとうございます。お気遣いなく。赤ちゃんは寝るのが仕事ですから」
そんなやりとりをして扉を閉める。
妻にいきさつを話して、もらったお米を渡す。
妻は可愛く包装されたお米を見て顔を綻ばせた。
「めでたいね。でも、泣き声全然聞こえないね」
「そうだな。このアパートは比較的防音がしっかりしてるから」
「夏になったら窓を開けるから、聞こえるかもね」
嬉しそうに言う妻を見つめながら、うちにもいつか子供ができたりするのだろうか、と考える。
まだもう少し先だとどこかで思っているが、その時は突然訪れるのかもしれない。
子供が生まれたら、世話で大変になるだろうが、今のうちに色々と準備をしておこうかな。
……ん?
その時、なんだか違和感を覚えた。
違和感の正体を探ろうとするが、分からない。
一瞬、何かが頭をよぎったのだが……。
分からないものは仕方ないので、朝食の続きを摂ることにした。
次の日。
出勤する時に、ふとお隣の車を見ると、チャイルドシートがついていた。
へぇ、最初は赤ちゃんを寝そべらせるような形に取り付けるんだ。
首が座っていないからかな。
そんなことを思いながら会社に向かった。
その次の日。
会社から帰ってくると、妻が青い顔をしていた。
「どうしたんだ」
私が聞くと、妻は真っ青な表情のまま答えた。
「今日、見ちゃったの。お隣の奥さんとすれちがった時に。おくるみっていうのかな。それに赤ちゃんを抱いて、なんだか急いでいたの」
「へぇ、熱でも出したのかな」
「そうじゃないの。おくるみにくるまれた赤ちゃんを見たら、人形だったのよ」
その時、僕は気がついた。
あの時の違和感。
今考えると、最初からおかしかったのだ。
産まれたばかりの赤ちゃんがいるはずなのに、お隣の二人は夫婦揃って挨拶に来た。
産まれたばかりの赤ん坊がいるなら、二人一緒には来れないはずではないのか……。
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