消え入り系メイク

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「消え入り系メイク」というものがあるらしい。

「○○メイク」というと今までもガングロ系メイクとか地雷メイクなど色々あったが、その最先端なのだそうだ。

 消え入り系メイクをすると人から認識されづらくなる効能があるらしい。

 理論としては車のライトで照らされた人が消える「蒸発現象」に近いものだと聞いた。

 私はさっそく消え入り系メイクを試してみた。

 調べた方法でメイクを施し、地味な服を着て町に出ると、本当に人から認識されづらくなった。

 ただ普通に歩いているだけでもよく人にぶつかられるのである。

 これは便利だ。

 私は消え入り系を施してから仕事に向かった。

 職場では気配を消すことが大事である。

 なぜなら目立つと仕事を振られるから。

 この現代社会においても、気に入らない人間に仕事を振ってくる上司が存在するのだ。

 その上司の目から逃れる為に気配を消したいと思っていた私にとって消え入り系メイクはうってつけだった。

 消え入り系メイクをするようになってから仕事が減り定時退社できるようになった私は、今日も誰からも話しかけられることなく仕事を終え、タクシーに乗り込んだ。

 自宅への道はすでに登録してある。

 少し前までは人が自動車を運転していたけれど、今じゃ危なかしくって考えられない。

 家に帰り着くと会社から給与明細が送信されていた。

 これを見る瞬間だけが楽しみである。

「……え?」

 私は思わず玄関で立ち尽くした。

 給与明細に記載されている給与の金額がいつもの半額以下になっている。

 なんで!?

 毎日ちゃんと仕事に行っていたのに、月の半分以上欠勤したことになっていたのだ。

 そこで私は、はっと気がついた。

 私の勤める会社では顔認識によってタイムカードが切られている。

 もしかしたら消え入り系メイクのせいでタイムカードが切られていない日があったのでは……。

 原因は分かったのだが、私はそれ以上に空恐ろしくなった。

 月に半分以上私がいないのに、誰からも怒られず、仕事も問題なく回るなんて。

 本当に私はあの会社にとって必要な人材なのだろうか……。

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