「こちらデザートになります」
私は新しくこの国の国王となった男の前に、切り分けた果実の載った皿を置いた。
軽く一礼して私は歩き出す。
この男の食事を邪魔しないように。
この男の悲哀に触れないように。
この国では、国王が亡くなると、その灰をある場所に巻く。
ある場所とは、ある木の根元である。
その木の根元には、歴代国王の遺灰が巻かれている。
現職の国王が亡くなると、その遺体を火葬し、遺灰を巻くのだ。
そしてこの木は、次の国王が決まるまでの間に必ず実をつける。
その実には歴代国王たちしか知り得ぬこの国の闇が封じられているらしい。
実を食べることでその全てを知ることができる。
新しくこの国の国王となった者は、初めての食事でその果実を食べなければならない。
つまり新しく国王となったものは、その座についてすぐ、この国の暗部について知らされるのだ。
ある者は嘆き、あるものはその場で涙する。
国王になったことを後悔するのだ。
さて、この男はどんな声をあげるのだろう。
知りたくもないと思った私は、足早に部屋を出ようとした。
その時、笑い声が部屋中に響き渡った。
「料理長」
国王に呼ばれた私は振り向いた。
「美味いじゃないか。もっとないのかね?」
そう言った男の口の端からは、赤い果汁が滴り落ちていた。
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