芽が出る人間

ショートショート作品
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 新しい会社を立ち上げようと考えた時、俺はすぐに苗木に声をかけた。

 苗木は学生時代の友達で、ある特異体質の人間だった。

 それは頭から芽が生えるというもの。

 学生時代、苗木の頭に芽が出ることを発見した俺はそのことを苗木に聞いた。

「なんだよそれ!」

「あけすけに聞く奴だなぁ」

 穏やかな性格の苗木はそんな風に笑った。

 それから俺たちは友達になったのだった。

 苗木の頭には、苗木が今見ているものや、やっていることに将来性がありそうな時に芽が現れる。

 学生時代、彼女が欲しいからナンパに挑戦すると言った苗木の頭に芽が出ていないのを見て止めたこともある。

 つまり苗木の頭を見れば、俺が今立ち上げようとしている会社の将来性が分かるというわけだ。

 俺は、事業計画書を持って苗木の元を訪れた。

「なぁこの会社、行けると思うか?」

 そんな風に聞く俺に、苗木は「いやぁ、俺はITのことはよく分かんねぇよ」と笑った。

 しかしその頭から、ぴょこんっと小さな芽が生えている。

 行ける、と確信した俺は「役に立てないと思うぞ」としぶる苗木を口説き落とし、監査役に迎えて会社を立ち上げた。

 立ち上げた会社は順調なスタートを切った。

 事業の方向性に迷った時、俺は必ず苗木に相談し、その芽を見ることで会社の舵取りをした。

 基幹事業は成長を続け、新規事業も次々に立ち上がった。それに伴い従業員の数も増えた。

 俺は苗木に各部署をそれぞれ回ってもらって様子を見てもらった。

 そして俺がそんな苗木の様子を都度確認し、芽が出ていないようならテコ入れをする。

 そうやって会社は回っていった。

 苗木は「仕事もできないのに監査役なんて、なんか申し訳ないよ……」と言っていた。欲のない奴だ。

 しかしそんな順調な日々は長くは続かなかった。

 ある時から、苗木の頭にまったく芽が出なくなったのだ。

 苗木に「何か体の調子でも悪いのか」と聞いてみるが、まったくの健康体だという。

 そして苗木に芽が出なくなると、やはり会社の業績も悪化していった。

 なぜこんなことが起きているのか。

 苗木の頭に芽が出なくなった原因は、単純なことだった。

 社員のモチベーションの低下。

 部署をたびたび移り変わる苗木に監視されているような気持ちになること、そもそも実務を行わない苗木が会社の重役であること。

 そんな不満が折り重なって、社員の会社への忠誠度や仕事に関するモチベーションが地に落ちていたのだ。

 事業内容に問題がなくても、それを行う人間にモチベーションがなければうまく行くはずがない。

 社員たちの不満は、もはや苗木に会社を離れてもらうしか解決できないところまで来ていた。

 全て俺の責任だ。

 俺は苗木を呼び出して、「本当に申し訳ないんだが……」と事の次第を説明した。

 苗木は激することもなく「肩の荷が下りたよ」なんて言って笑っていた。

 その後、俺は苗木がいなくなった会社でなんとか事業を立て直そうと奮闘したが、業績が上向くことはなく、まもなく会社を畳まざるを得なくなった。

 会社を失って晴れて失業中の身となった俺は、やはりもう一度ちゃんと苗木に謝りたいと思って地元に戻った。

 俺が苗木を訪ねると、苗木はつなぎ姿で俺を迎えてくれた。

「やぁ、よく来たな」

そんな風に晴々とした表情で言う苗木の頭を見て、俺は何からなにまで間違っていたのだな、と思った。

 俺の会社を辞めた後、花農家を開業した苗木の頭には、芽どころか立派なつぼみがなっている。

「こういう仕事が性に合っていたみたいでな」

と言う苗木に、俺は言った。

「俺にも手伝わせてくれないか。その花が咲くところを見たいんだ」

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