僕は最近BMXレースにハマっている。
BMXレースとは「BMXバイク」という小型の自転車に乗って起伏やカーブのあるコースを走る競技のことだ。
BMXレースは一目見た人間を虜にする魅力を持っている。
僕もその一人というわけだ。
だがBMXレースを楽しむにあたって、一つだけ問題がある。
それは練習場が少ないことだ。
あるにはあるのだが僕の住んでいる町からは中々遠かったりして気軽に通えない。
そんな時、僕にBMXレースの魅力を教えてくれた先輩が「いいコースがあってね」と僕を誘った。
そこは僕や先輩の家からもほど近く、しかも、なんと無料で使ってもいいのだという。
先輩に連れられてコースにやってきた僕は思わず興奮して「いいっすね、ここ!」とはしゃいだ。
さっそく走ってみようと思ったのだが、それにしてもなんだか不思議な形をしたコースだ。
何かに似ているような気がするが、何か分からない。
先輩によると、ここは知る人ぞ知る秘密の練習場なのだという。
さらに先輩は「ここを使う時は一つだけ気をつけなきゃいけないことがある」と言った。
先輩は僕を練習場の真ん中に連れて行った。
「ここに蓋があるだろ」
先輩が指差した先を見ると、確かに蓋があった。
なんだかマンホールみたいな蓋だ。
「この蓋は絶対に外すな」
「外しませんけど……何かあるんですか?」
「とにかく外すな」
先輩はそれだけ注意をすると「あとは利用時間も守ってな」と言って練習を開始した。
僕も装備をつけて練習を始める。
いい感じのカーブがあって、ジャンプもある。
リズムセクションと呼ばれる細かい起伏がないのは残念だが、無料で使える練習場に贅沢を言ってはいけない。
僕はその日先輩と一緒に思う存分練習をして、それから一人でこの練習場に通った。
ある日、僕はどうしても忙しくて昼間に練習場に行くことができなかった。
練習場の利用時間は17時までと先輩に言われていたのだが、特にそんな注意書きがあるわけではない。
僕はどうしても練習がしたいなと思って練習場に向かった。
練習場には誰もいなかったが、鎖などで封鎖されているわけではなかったので、僕は練習場の中に入った。
ちょっとだけ、と思い練習を開始しようと思った僕はあることに気がついた。
あの、初日に先輩が「一つだけ注意がある」と言って指差した練習場の真ん中にある蓋。
それが外されているのである。
いつも蓋がしてあったので気がつかなかったが、そこには丸い空洞があった。
恐る恐る覗いてみるが、底が見えない。
なんなんだろう、この穴は。
僕はその辺りに落ちていた小石を試しに投げ込んでみた。
しかし小石が底に落ちる音は聞こえなかった。
どんだけ深いんだこの穴……?
その時である。
僕が立っている練習場がドシン、と震えた。
地震か……?
練習場全体がまるで波打つように震え始める。
それを見て僕はあることに気がついた。
僕は慌てて練習場のカーブを這い上がり、その後は振り向かずに逃げた。
そうだ。
あのコース、何かに似ていると思ったんだ。
背後で何か大きいものが起き上がるような、そんな重苦しい音が聞こえる。
あれは……そう、あの形は、人間の耳だ。
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