我が家に不思議なものがやってきた。
それは髪ゴムのようなバンドで、腕につけて使うものだった。
バンドの正式名称は「リレー式夢バンド」という長ったらしい名前だったので、私たち家族はただ「バンド」と呼んでいた。
バンドはいわゆるおもちゃに属するもので、そのバンドをはめて寝た時に見た夢の続きを他の人に見させることができるというものだった。
夢から覚めたらバンドを外して、続きを見せたい人の腕につけてその人に寝てもらう。
ちなみに本人が続けてバンドをしても夢の続きは見られない。
必ず違う人がリレーのようにバンドをつけて寝る必要がある。
父親にバンドを買ってもらった私と弟はこのバンドでよく遊んでいた。
ある時、私はゾンビに追われる夢を見た後にこっそり弟にバンドをつけた。
翌朝泣きながら目を覚ました弟に告げ口されて、私は母に叱られたのだった。
さてそんなバンドだったが、私が結婚して家を出た後もなぜか私の手元にあった。
特に使う予定もなかったので物入れにしまっておいたのだが、ある日掃除をしている時にバンドを発見した私は久しぶりにバンドをして眠ってみることにした。
その日、私はレオと遊ぶ夢を見た。
実家で昔飼っていた犬のレオ。
私が家を出る少し前に天国に行ってしまったレオと一緒に遊ぶ夢。
レオは好きだったボールをいつまでも追いかけていた。
目が覚めた私は、その日の日中に一度実家に戻った。
そして「これを寝たらいい夢が見られるよ」と母親にバンドを渡した。
母は「あら、懐かしい」なんて言って早速バンドをはめていた。
翌日、母から「久しぶりにレオに会えて嬉しかった。今夜はお父さんがはめるって」とメッセージが送られてきた。
そしてその日から母と父が交代でレオの夢を見ているらしい。
噂を聞きつけた弟もたまにレオと遊んでいるようだ。
しかし一ヶ月くらい経ったある日、母から「バンドを取りに来て」とメッセージが送られてきた。
実家に戻った私が訳を聞くと「毎晩レオと夢の中で遊ぶから、お母さんもお父さんも睡眠不足気味になっちゃってね」と笑っていた。
それならばと私はバンドを持って帰って、自分が最後にレオと遊んで終わりにしようと考えた。
母も「レオちゃん、また夢に出てきてくれるだろうから」と言っていた。
その日の晩、私は久しぶりにレオと遊んだ。
レオはまだ元気だった頃のレオで、緑色のボールを何回も何回も追いかけて持ってきたのだった。
翌朝目が覚めた私は、なんとなく名残惜しい気持ちでバンドを外した。
しかしもう母たちのところに持っていくわけにはいかない。
夜になり、私は眠りについた。
その日は夢を見なかった。
しかし夜中に目を覚ました。
目を覚ました原因は横で寝ている夫の寝言である。
私がこっそりつけたバンドを腕にはめながら寝ている夫は「また投げるのぉ? 休憩しようよ〜」と寝言を言いながら、ボールを投げる仕草を繰り返していた。
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