ドミノ洞穴

ショートショート作品
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 僕らの町には、ある不思議な洞穴がある。

 そこは「ドミノ洞穴」と呼ばれていて、洞穴の中に所狭しとドミノが並べられている。

 そのドミノを倒すことなく洞穴の奥まで行くと、何かが起こる、ともっぱらの噂なのだけれど、未だそれを達成した人はいない。

 僕は友だちのよっくんと何度か洞穴に挑戦した。

 ヘッドライトをつけて慎重に進むのだけれど、いつも僕がよっくんのどちらかがドミノを倒してしまう。

 そしてとうとうよっくんが「俺飽きた」と言って洞穴に来てくれなくなった。

 それでも僕は諦めきれず、一人で洞穴に向かった。

 洞穴につくと、またドミノが元通りに並べてあった。

 一体、誰がドミノを並べているのだろう。

 不思議に思いながら僕は洞穴の中に入った。

 慎重にドミノを倒さないように、洞穴の中を縫うように進んでいく。

 よっくんがいないと心細いが、いつもより集中できている気がする。

 洞穴は、僕が思っていたより深かった。

 奥に行くほどドミノは複雑になっていく。

 慎重に、一歩一歩奥に進んだ。 

 と、ついに洞穴の一番奥まで辿り着いた。

 そこに張り紙がしてあった。

 張り紙にはこんなことが書いてあった。

『こちらからご自由にどうぞ↓』

 やじるしの下に、ドミノの切れ目がある。

 これを倒していい、ということだろうか……?

 僕は洞穴の壁を背にしてしゃがみ込んだ。

 そしてドミノを指で押す。

 ドミノはパタパタと音を立てて崩れていく。

 ヘッドライトの明かりが届く場所のドミノは全て崩れたが、ドミノの倒れる音はずっと続いていく。

 出口の方までパタパタという音が続いていくと、音がまた戻ってきた。

 パタパタパタパタパタパタ。

 ドミノの音がだんだん大きくなってくる。

 しかし僕のいる場所の近くにはもう倒れていないドミノはないはずだ。

 パタパタパタパタパタパタ。

 音はもうすぐそばでしている。

 パタパタパタパタパタパタ。

 ドミノの倒れる音が止まった。

 気のせいだろうか。

 最後の音が、僕の後ろから聞こえたような……。

 振り返ると、僕の靴の後ろにドミノがあった。

 さっきはこんなところにドミノなんてなかったのに……。

 一体、誰が。

 どうやって。

 僕はすごく怖くなって、全速力で洞穴から出た。

 あれから、もうあの洞穴には行っていない。

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