僕は山が好きだ。
今も山に登っている。
ここは全然有名な山ではない。
そういう山はもうほとんど登ってしまったのだ。
でもこういう山も嫌いではない。
山は有名だからいい、ということもないのだ。
と、目の前を登山客らしき男性が歩いていた。
その男性は変わったリュックを背負っていた。
鈴がついているので、熊よけかなと思ったのだが、よく見ると、赤ちゃんが遊ぶガラガラのようなものもついている。
さらにその男性は、山道をまっすぐ進むことなく、ふらふらと蛇行するように歩いていた。
ふいに男性がこちらを振り返り、目が合う。
僕は思わず話しかけた。
「あの、変わったリュックサックですね」
「あぁ、これですか」
男性は人懐っこい笑顔を浮かべると、こんな話を始めた。
彼はこの山のお守りをしているらしい。
この山は活火山で、お守りをしないと噴火してしまうそうだ。
だから彼のような「山のお守り」が山道を歩きながらあやすのだとか。
そんな仕事があるのか、と僕は興味を惹かれた。
できればずっと山にいたいと思っている僕にとっては、うってつけの仕事かもしれない。
男性が言った。
「山がお好きなんですね。よろしければ、もう少しこの仕事について話しますか」
僕は「はいっ」と返事をして男性と一緒に山を回った。
結局、かなり遅くまで話を聞いてしまって、僕は男性の家にお邪魔することになった。
男性の家は山の麓にあって、いつでも山に入れる場所にあった。
本当に、僕の理想とする生活をしている人だな、と思った。
山菜で作ったお蕎麦をご馳走になり、用意していただいた寝床で横になる。
夜中、僕は大きな揺れで目が覚めた。
地震か!? まさか、山が噴火したんじゃ……。
僕は慌てて男性を揺り起こした。
すると男性は眠そうに目をこすりながら言った。
「あぁ、あれは山がよく寝ている証拠だよ。山もいびきをかくんでね」
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