私はトイレに大きな日本地図を貼っている。
都道府県の場所と名前を覚える為だ。
大人になり、漁師をしているのに、これらをきちんと覚えていないのでトイレで特訓しているのである。
と、地図上の太平洋側に、何か小さな輪っかのようなイラストがあるのを見つけた。
こんなの……昨日もあっただろうか?
よく目を凝らしてみると、それは浮き輪だった。
青い浮き輪のイラストが海にぷかぷか浮いている。
ふむ、気づかないだけで前からあったのだろうと思い直し、トイレから出た。
次にトイレに入った時に見てみると、なんと浮き輪が移動していた。
これはどうしたことだろう。
地図上の浮き輪のイラストが勝手に移動しているのである。
次の日の朝、トイレに入るとまた浮き輪の位置が変わっていた。
しかも、私の家の近くまで来ている。
私は慌てて家を飛び出し、自分の漁船に乗った。
沖に出てしばらくして、地図上で近かったとしても、縮尺の関係で近く見えるだけではないか? という当たり前の事実に気が付く。
私は冷静になって、帰ろうとした。
と、すぐそこの海の上に、青い浮き輪が浮いている。
あの地図の浮き輪のイラストにそっくりだ。
私は慌てて船を浮き輪に近づけた。
あの浮き輪を我が家に持って帰ったら、地図上の浮き輪も我が家の場所に移動するのだろうか?
そんな想像をしながら浮き輪に手を伸ばす。
と、私が触れた瞬間、浮き輪がパンッと弾けて消えてしまった。
私は呆然としながら家に帰り、すぐにトイレの地図を確認したが、浮き輪のイラストはもうどこにもなかった。
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