私はメロン農家をやっている。
今年も収穫の時期がやってきた。
大きな災害もなく良く育ってくれたメロンを一つ一つ収穫していく。
「よっこいせ」
私はそんな掛け声をあげながらメロンを収穫した。
もう若くない。
時折腰を休ませながらメロンを籠に入れていく。
と、その時だった。
持ち上げようとしたメロンがグッと何か詰まったように持ち上がらない。
「なんだ……? どっこいせ!」
私は腰を深く沈み込ませてメロンを持ち上げた。
その時、モコッとおかしな感覚がした。
メロンから手を離す。
「ひえぇええ!」
私はそのメロンを見て腰を抜かした。
いや、正確にはメロンの下を見て腰を抜かしたのである。
メロンから野太い首が生えていた。
そしてその首の先は地中に埋まっている。
つまり、メロンを頭のようにして人間の首が生えており、その体は土に埋まっているのだ。
パニックに陥りそうになった私をよそに、メロンの体がモコッと自分で土から出てきた。
「ぎえええーーー!」
私はその場で叫び声をあげた。
地中から生まれたメロンの体は、しかし何をするでもなくそこに立っていた。
「あ、あの……?」
私が話しかけても特に返事はない。
メロンの体は男のものだった。
メロンは頭から下は何も着ていない。
仕方なく私はメロンを家に連れ帰って私の服を着せた。
メロンは相変わらず何も言わなかったが、どうやらこちらに危害を加える気などはないようである。
それからそのメロンは私の畑仕事をよく手伝ってくれた。
命じたわけでもないのに進んで畑仕事を手伝い始めたのだ。
体が屈強なので私が苦労して持ち上げるものも軽々と持ち上げてしまう。
だが、こんなに頑丈な体を持っているのに畑仕事をさせておくのは何かもったいない、と私は思った。
そこで私は知り合いのスポーツトレーナーにメロンのことを紹介した。
私からメロンを預けられたトレーナーは彼の才能を十分に活かせる競技の選手として彼を育て上げてくれた。
そしてメロンは謎のマスクをつけたプロレスラー”マスク・ド・メロン”として人気者になったのだった。
マスク・ド・メロンがリングに立つ時は会場が超満員になるほどで、私の農家から生まれたマスク・ド・メロンはプロレスブームを起こすきっかけになったのだった。
しかしそんなある日、マスク・ド・メロンを育て上げた私の友人のトレーナーが一つのメロンを持ってやってきた。
そのメロンにはたくさんの傷がついている。もしや、これは……。
トレーナーはメロンを撫でながら言った。
「試合後、あいつがな、一人にしてくれって言うんだ。いや、実際に言ったわけじゃないよ。でもそんな気がして。控室に一人にした。そうしたらこのメロンだけ残っていたんだ。だからおまえに返しに来た。多分こいつは……食べてもらいたいんじゃないかな」
かつてマスク・ド・メロンと呼ばれたメロンはそうやって私の元に帰ってきた。
メロンの突然の帰還から数日後、私はメロンを叩いたり押してみたりしてその状態をチェックした。
メロンは完全に熟していた。
「機は熟したってところか」
私はちょっとおっかなびっくりそのメロンを切ってみた。
中身は普通のメロンで、メロン農家をやっている私の舌を唸らせるほどにうまかった。
まるまる一つ自分だけで食べるにはメロンは大きかったので、私は近所の子供たちを呼び寄せてメロンを振る舞った。
子供たちはメロンを美味しそうに頬張っている。
そして子供たちはメロンを食べながらテレビ画面に釘付けになっていた。
テレビではプロレスが流れている。
マスク・ド・メロンの電撃引退は世間を騒がせていた。
だが今子供たちは、私とトレーナーの友人が昨日新しく輩出した選手を応援している。
先日、メロンとは別に副業でやっていた畑から新たな選手が生まれたのだ。
子供たちはメロンを頬張りながら応援する。
がんばれ、マスク・ド・スイカ、と。
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