メロディ風呂

ショートショート作品
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 私は一人旅で、ある宿にやってきた。

 ここにはメロディ風呂というものがあるらしい。

 部屋に案内された私は、さっそく風呂に行ってみることにした。

 中に入ると、たくさんの宿泊客でやや混んでいた。

 まずは「クラシック風呂」と書かれている風呂に入る。

 風呂に浸かった瞬間、おだやかなクラシック音楽が聞こえ始めた。

 なんとも言えないゆったりした気持ちになる。

 しばらくクラシック風呂に浸かった私は次の風呂に向かった。

 その風呂は何やらボコボコと泡立っている。

 そこは「ロック風呂」と呼ばれるもので、なんでも、浸かるとすぐに温まるらしい。

 他にも「バラード風呂」なんていうものもあって、浸かるとクラシック風呂とは違ったしんみりとした気持ちになった。

 色々な風呂を巡っていると、見た目では普通の風呂にしか見えない風呂があった。

 ここはなんの風呂なのだろう、と思っていると、その風呂に浸かっているおじいさんが大声で歌い始めた。

 ははぁ、ここは「カラオケ風呂」らしい。

 興味はあるけど……やめておこう。カラオケは苦手だ。

 翌日、朝一番で風呂に向かった。

 昨日はあれだけ混んでいたのに、今日は誰もいない。しめしめ、いいタイミングで来たみたいだな。

 風呂に浸かろうと思った私の目に、あの「カラオケ風呂」が飛び込んできた。

 キョロキョロと辺りを見渡す。やはり誰もいない。

 私はこっそりカラオケ風呂に浸かった。

 肩まで浸かると、なんだか歌いたくなってくる。

 私は上機嫌で数少ない持ち歌を歌った。

 と、その瞬間、風呂はたちまち冷水になってしまった。

「ひゃあ!」

 私は叫びながら風呂から出た。

 随分前にカラオケに行ったときも、あまりの音痴さにみんな凍りついたもんな。

 やっぱりカラオケは苦手だ、と思いながら私はロック風呂に向かった。

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