鳴り男

ショートショート作品
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 また、拍手が鳴っている。

 みんな両手を叩いて喜んでいる。

 しかしその拍手は、普通の人が考える拍手とは違う。

 その拍手は僕を嘲笑する拍手なのだ。

 僕は昔からおかしな体質の持ち主だった。

 誰かに体に触れられると、体から「キュッ」とか「ボンッ」といった”音”が鳴るのだ。

 そんなおかしな体質のせいで僕は昔からからかわれたりいじめられたりした。

 だから僕にとって学生時代はとても辛いものだった。

 社会に出て会社員として働くことになり、これからは学生時代と違って体に触れられることも少ないだろうと思っていたのだが、その甘い考えはあっさりと打ち砕かれた。

 満員電車である。

 毎朝の通勤で人の体と触れ合ってしまう満員電車で僕は音を鳴らし、人に迷惑をかけてしまった。

 そしてさらに悪いことに、それを同期の社員に見られて会社中にバラされてしまったのである。

 同期や先輩社員が皆、僕の体に触れて音を出し、両手を叩いて笑った。

 そんな会社に行くのが苦痛になり、僕はある朝、通勤電車に乗っている最中に気分が悪くなってしまった。

 まだ降りる駅ではなかったのだが、もう限界だと思った僕は「すみません」と声をかけ「ギュッ」だの「バリバリッ」だのと音をさせながら人の間を通って電車から降りた。

 駅のホームに降り立つ頃には意識が朦朧とし、僕はそのまま意識を失ってしまった。

 綺麗な音楽が聞こえる。

 この音はなんだろう。

 僕が目を覚ますと、そこは駅のベンチだった。

 横になっている僕の頭の下に柔らかい感触があり、頭上には女性の顔がある。

 女性は目をつむりながら僕のお腹や胸あたりに指を走らせていた。

 女性が指を動かす度に僕の体から聞いたこともないような美しい音色が流れた。

 女性に膝枕をしてもらう格好で僕が動けずに女性の顔を見つめていると、女性が目を開けてこちらを向いた。

 女性はハッとしたような表情をしてから「ご、ごめんなさい!」と謝って指を止めた。

「い、いえ、大丈夫です」

 僕がそう言いながら体を起こすと、女性はもう一度謝ってから事情を説明してくれた。

 駅のホームで倒れた僕を、この女性が介抱してくれたらしい。

 そして女性は僕の体に触れると音が鳴ることを知った。

 女性はどうやらピアニストをしているらしく、そんな彼女は職業柄、思わず僕の体で音楽を奏でてみたくなったのだと言う。

 僕はさっき聴いた音楽を思い出した。

 おかしな音しか鳴らないと思っていた僕の体から、あんなに美しい音色が奏でられるなんて……。

「本当にごめんなさい!」

 そう言って頭を下げて行ってしまおうとする女性を、僕は慌てて呼び止めた。

 そんな出会いから数年後。

 僕たちは二人で大舞台に立った。

 いや、正確には僕は立ったのではなく寝そべっていたのだが。

 僕の体の上を彼女の指が走り、僕の体からまた音楽が生まれていく。

 その音色が止む頃には、割れんばかりの拍手が僕たち二人に送られた。

 それはこれまで僕が聞いてきたような拍手ではなく、正真正銘の賛美を込めた心地よい拍手の音であった。

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