私は一人暮らしをしている部屋でヨーグルトの蓋を開けた。
これを食べるようになってからすこぶる調子が良い。
ただし胃腸が、という意味ではない。
このヨーグルトを食べるようになってから、幽霊を見ることがなくなったのだ。
私は昔から幽霊が見える体質で、それが当然だと思って過ごしてきた。
しかし大人になると「幽霊が見える」という体質は若干疎ましくなってくる。
幽霊は普通の人間と変わらない姿でそこにいたりするので、「もしもし」なんて話しかけて友人に気味悪がられたりするのである。
私は普通の人みたいに幽霊なんて見えないようになりたいと思った。
とはいえ、幽霊が見えるのは体質なのでどうしようもない。
そう諦めかけていた頃、このヨーグルトを発見したのである。
なんでもこのヨーグルトを食べれば幽霊が見える体質を改善できるというのだ。
私は半信半疑ではあったがさっそくヨーグルトを取り寄せてみた。
もちろんすぐに効果は現れなかった。
普通のヨーグルトだって、腸内環境を整える為にはヨーグルトを食べ続け、善玉菌を腸内に増やしてやる必要がある。
そう思いヨーグルトを食べ続けた私は、その効果に感動した。
あれほどくっきり見えていた幽霊の姿が次第にぼんやりし始め、しばらくするとその気配や音しか感じなくなった。
まさかこんな如実に効果が現れると思っていなかった私はヨーグルトを毎朝欠かさず食べ続けた。
そしてとうとう完全に幽霊を感じなくなったのである!
私は喜んだが、そこで油断せずにきちんとヨーグルトを食べ続けている。
普通のヨーグルトも食べるのを止めてしまえば腸内環境が荒れる。
このヨーグルトも、食べるのをやめたらまた幽霊が見えるようになってしまうかもしれない。
私は今朝もヨーグルトを二つ取り出し、テーブルの上で蓋を開けたのだった。
「いただきまーす」と手を合わせ、食べ始める。
このほのかに甘い味も今では病みつきだ。
あっという間にヨーグルトをたいらげた私はヨーグルトのカップとスプーンを持って台所に向かった。
「ちょっと、どいてよ!」
私はシンクの前に立っている小豆洗いに声をかけた。
最近こいつのせいで水道代がかさんでいる。
ヨーグルトの副作用に”妖怪が見えるようになることがあります”と書いてあったが、こちらもきっちり効果が現れるとは。
「もう、どいてってば!」
私は両手が塞がっているのでお尻で小豆洗いをどかせて、シンクにスプーンを置いた。
そして「食べ終わったらこっち持ってきてよー!」と、テーブルでまだちみちみとヨーグルトを食べている座敷童に声をかけた。
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