「定例企画会議を始めますので、当番の方は集まってください」
社内アナウンスを受け、私は企画室に向かった。
企画室にはすでにたくさんの社員が集まっている。
「今日の議題は、B社のメインキャラクターデザインについてです」
議題を受けて私たちはみんな椅子に座りながらう〜〜ん、と唸った。
見ると、何人かの頭からすでにもうもうと湯気が上がっている。
キャラクターデザインを考えているうちに、私の体や頭からも湯気が上がり始めた。
そしてその湯気は他の社員の発する湯気と一体化し、やがて巨大な霞になった。
霞はしばらくもやもやと漂ってから、やがて固まって落ちてきた。
白い固形物となった霞はキャラクターの形になっていた。
「お、いいね! これでいこう!」
会議に参加したみんなでほっと一息をついた。
この会社にあるこの不思議な企画室は、元は普通の会議室だったらしいのだが、ある偶然から企画室に生まれ変わったそうだ。
ある冬の日、エアコンが壊れてしまって、企画室全体がすごく寒くなった。
さらに、設計上の理由で、企画室の気圧が下がる仕組みになっていたのである。
その結果、企画室で議題について唸っていた人の頭から湯気が立ち上るようになったらしい。
そしてその湯気は次第にたくさんの人の湯気と混ざりあい、企画の形を成したということだ。
それからこの企画室では定期的に議題に沿って企画会議が行われるようになった。
企画会議には各部署から一人ずつ参加する。
色々な部署の人間が集まった方が斬新なアイデアが出やすい、ということらしい。
ある日、入社したばかりの新入社員くんがミスを犯した。
普通の会議室がすべて埋まっていたので、企画室に取引先の方を案内してしまったのだ。
「お客様がいらっしゃいましたので、企画室でお待ちいただいています」
そんな報告を受けた私は慌てて企画室に向かった。
おかしなことになっていなければいいけど、と思いながら企画室のドアを開けると、取引先の方が二人、何やら興奮して話し合っていた。
二人の頭からはもうもうと湯気が立ち上り、それがぼんやりと形になっている。
どうやら私を待っている間に二人の間で新しい企画が生まれたらしい。
怪我の功名というやつか、新しい企画が生まれたことで、私の会社にも仕事を発注してもらえることになったのである。
打ち合わせを終えて取引先の二人を見送った私の中に、何かもやもやしたものが残った。
なんだろう、これ。
私はそのまま企画室をおさえて、一人もやもやの正体を探った。
頭から湯気が出てきて、企画室が靄に包まれる。
何かひらめきそうなのだが……。
しかし靄は一向に形にならなかった。
部屋に充満した靄で周りが見えなくなる。
私は内線電話で新入社員くんを呼んだ。
こういう風に煮詰まった時は、別の人間の考えを混ぜるといいのだ。
やってきた新入社員くんは部屋に充満する靄にまず驚いて、それから言った。
「これ、もしかしてもうできてるんじゃないですか?」
「え?」
「アイデアって、この部屋のことなんですよ!」
新入社員くんの一言をきっかけに、私はアイデアを形にすることができた。
そう、私が思いついたのは、この企画室そのものの仕組みを売りに出すというアイデアだった。
偶然できた企画室の仕組みを解明し、特許を申請する。
そして様々な場所に作った企画室を利用してもらい、使用料を払ってもらうというビジネスだ。
新入社員くんと私とで作り出したこのビジネスのおかげで、会社の業績はうなぎのぼりなのだった。
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