大学の食堂に行くと、友達がスケジュール帳にシールを貼っていた。
鴨のシールだった。
「何それ、かわい〜」
私がそう言うと、友達は顔をあげてにこりと笑った。
「これはね……」
と、その時、どこかから「グワッグワッ」と鴨の鳴き声のような音がした。
友達がパッと顔を輝かせて言う。
「あ、今もしかして時間ある?」
「え? うん、あるよ」
「じゃあお茶しよ」
大学を出て喫茶店に入る。
ケーキと紅茶を注文すると、友達が言った。
「これはね、”todo鴨シール”というものなんだ。スケジュール帳に、できたらいいな〜っていうゆるい予定を書き込んで、その横にこの鴨のシールを貼っておくの。そうするとそれができそうな時に、さっきみたいにグワッグワッて鳴くんだ」
そう言いながら友達がスケジュール帳を見せてくれる。
そこには「友達とゆっくりお茶する」と書かれている。
友達が言った。
「それができるカモ、ってことで鴨のシールなんだって」
「えー、可愛い! 私も欲しいな〜。どこで売ってるの?」
私は友達から販売サイトを教えてもらって、さっそく鴨のシールを注文した。
数日後。
電車に乗っていると、突然鞄の中からグワッグワッと鳴き声がした。
きっとtodo鴨シールだろう。
一体何の予定ができそうなのだろうか。
乗客の視線を浴びて焦っている私に、一人の男の人が「可愛い鳴き声でしたね」と笑いかけてくれた。
「あ、はい。すみません……!」
そのやり取りでなんとなく場が和み、ほっとしながら私は次の駅で降りた。
あぁ、びっくりした。
マナーモードが欲しいなぁ、なんて思いながらホームのベンチに座り、スケジュール帳を開く。
鳴いている鴨シールのところには「運命の人に出会う」と書かれている。
ドキッと胸が高鳴る。
や、でも、そんな。まさかね。
「あ、やっぱり鴨のシールだ」
突然声をかけられて振り向くと、そこにさっきの男の人が立っていた。
「もしかしたらって思ったんです。僕も同じようなの使ってるので」
そう言う男の人が肩から斜めがけにしている鞄から「カーア、カーア」という鳥の鳴き声が聞こえた。
「カラス……ですか?」
私が尋ねると、男の人は「いえ、これは……」と鞄の方を見ながら言った。
「”トキ”なんです。僕って、色々優柔不断で。やるべき”トキ”に鳴いてくれるシールをスケジュール帳に貼っているんです」
「へぇ……!」
「あの、よければ、なんですが。その、どこかでお茶でも飲みながら鴨のシールの事とか教えてくれませんか」
「あ、はい! ぜひ」
私のスケジュール帳からグワッグワッと鴨シールの鳴き声が聞こえた。
それに答えるように、男の人の鞄からカーア、カーアという鳴き声。
私たちは鳴き声の大合唱の中、駅の出口へと向かった。
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