僕は大学でロボット工学の勉強をしていた。
卒業制作に班のみんなで作ったロボットには「ピピ」と名付けた。
ピピは班員一人ひとりの努力の結晶であり、初めて起動した時はみんなで飛び上がるほど喜んだ。
「しゃ、しゃべった!」
「動いた!」
「歩いた!」
そんな調子でみんなではしゃいでいると、ピピが言った。
『ワタシは何をすればいいですカ?』
ピピにそう言われて、僕たちはみんなで顔を見合わせた。
とにかく動かすことが目標で、何をするためのロボットか全然考えていなかったのである。
結局僕たちはピピに「おまえは何もしないでいいんだよ」と伝えた。
「ただそこにいるだけで可愛いんだ」
そう言われたピピは僕がプログラムした通りに”分からない”という意思表示で首をかしげた。
通い慣れた大学を卒業することになった僕たちは、電源を切っておいたピピのパーツを分けて持つことにした。
メインプログラムを組んだ僕が頭部を持ち、駆動部を作った奴が胴体と手足、循環系のシステムを組んだ奴は各種コード類、とそれぞれが担当した部位を持って「卒業しても折りに触れ再会してピピを起動させよう」と約束した。
だが、大学を卒業し、それぞれ働き始めた僕たちはすぐに忙しくなり、中々会うことができなかった。
数年の時が過ぎたが、結局僕たちは一度もみんなで集まることはなかった。
僕は頭部だけ起動してピピに聞いた。
「代わりのボディを作ってやろうか。メーカーのでも今はいいものがあるぞ」
しかしピピは否定の意思を伝えてから言った。
『ワタシのボディは、皆さんが持っているものでス。それ以外のボディはいりませン』
ピピがそう言うので僕はしばらく悩んだが、結局みんなのところを回ってボディを集めることにした。
地方に転勤してしまった奴もいたりして、もう完璧にボディを揃えるのは難しいと判断したからだ。
僕は有給休暇を利用してみんなのところを回ってボディを集めた。
僕がボディを受け取りに行くと、少しホッとしたような顔をする奴、「えー、持ってっちゃうのかよー。みんなと会えるのを楽しみにしてたのに」と寂しがる奴など、反応は様々だった。
みんなからボディを集め組み上げてやると、ピピは立派な一体のロボットに戻った。
ピピを組み上げながら、僕は自分の判断は間違っていたのではないか、と思った。
班員みんなの絆を、僕は勝手に早とちりして壊してしまったのではないだろうか。
『……ナオト』
「どうした、ピピ。どこか調子の悪いところがあるか?」
『いいエ。ナオト、ワタシのやるべきことが分かりましタ』
「え?」
『歩きまス。みんなのところヲ。歩いて回ル。そうすればみんな喜ぶでしょウ? だってワタシはそこにいるだけで可愛いんでしょウ』
それからピピは、僕の元からみんなのところへ旅立っていった。
みんなのところへ行ったピピはそれぞれと一緒に撮った写真や動画を僕たちみんなに送信してきてくれた。
ピピはそうやって、いつまでもいつまでも僕たちの元を順番に歩き回り続け、僕たちにとって待ち合わせスポットのようなロボットとして働いてくれたのであった。
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