幼い頃、母方の田舎によく遊びに行った。
ある夏の日、森に行って一人で虫取りをしていると、どこかから「チリンチリン」という音が聞こえてきた。
見ると、なんと風鈴が飛んでいる。
僕はそれを虫取り網で捕まえて家に持って帰った。
僕がじいちゃんに風鈴を見せると「綺麗な風鈴だな」と言って庭に吊るしてくれた。
風鈴は夜になってもチリンチリンと鳴っていた。
その様子が、なんだか森に帰りたがっているような気がして僕は、風鈴を離してやった。
風鈴はふらふらと飛んで、森の方に消えていった。
夜中、僕が寝ていると、またチリンチリンという風鈴の音が聞こえた。
両親を起こさないように布団を抜け出して窓を開けると、庭に風鈴が浮いていた。
その様子が、まるでついてこいと言っているようで、僕は靴を履いて庭に出た。
飛んでいく風鈴についていくと、森についた。
ふ、っと風鈴の姿が消え、どこからかたくさんの風鈴の音が聞こえてきた。
耳に心地いい風鈴の音。
寝苦しい夜だったけど、すごく涼しく感じた。
僕は森の中で母に揺り起こされた。
どうやら家の方では僕がいなくなって大騒ぎしていたらしい。
飛んでいる風鈴を見たんだ、と言ったけれど誰も信じてくれなかった。
今でもあの夏の出来事を思い出す。
外から風鈴の音が聞こえてくると、そこを風鈴が飛んでいるんじゃないか、とつい窓を開けてしまう。
今年も暑い夏がやってくる。
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