私がいつも眼帯をしているのには理由がある。
私にはおかしな性質がある。
両目で見つめると異性が私を好きになってしまうのだ。
幼い頃から見つめるだけで異性が自分のことを好きになるので、おかしいな、と思っていたのだが、母方の実家にある蔵である書物を見つけた時、その謎が解けた。
その書物は私の何代も前の時代を生きていた女性の手記で、そこには私と同じような特性について書かれていた。
その女性は目が悪さをしないように前髪を伸ばしていたようだ。
私は今、クラスで孤立している。
友達に自分の特性について話してしまったからだ。
このクラスになって初めてできた友達を必要以上に信じてしまった私が馬鹿だったのだ。
友達に自分の特性のことを話したら、いつの間にかそれがクラス中に知れ渡っていて、せせら笑われ、いつしか私の周りには誰もいなくなった。
放課後、誰もいなくなった教室で宿題を片付けていると、七宮くんが教室にやってきた。
ドキッと心臓が高鳴る。
何をしにきたのだろう。忘れ物だろうか。
「鈴野さん」
突然話しかけられて、私はどぎまぎしてしまった。
「な、何?」
「もし嫌じゃなければ、その眼帯を取ってくれないかな」
「え?」
「鈴野さんの顔を見てみたいんだ」
「どうして」
「君が好きだ」
突然の告白に私は固まった。
「だ、ダメだよ、私は」
「……そっか。ごめん、無理なこと言って」
七宮くんが教室を出て行こうとする。
「待って!」
私は思わずそう言って、眼帯を取った。
両目で彼を見つめる。
七宮くんは私のことをじっと見つめると、ふっと微笑んでから「素敵だ」とつぶやいた。
それから七宮くんと私は付き合うことになった。
そのせいで私はクラスで一層孤立したけれど、それでも私は幸せだった。
付き合い始めてから数ヶ月が経つと、私は次第にあることが気になり始めた。
七宮くんは私が眼帯をしている時に告白をしてくれたけど、私の目を見たから今でも自分のことが好きなのではないか、と考え始めたのだ。
実はもうとっくに好きじゃないのだけれど、目のせいで私と付き合っているのではないかと考えてしまう。
七宮くんはそんなことないというけど、彼自身はその自覚がないだけかもしれない。
そうだ、と私はあることを思いついた。
私の両目を他の誰かに見せればいい。
両目のせいで新しい人が私のことを好きになると、前に私の目を見て私を好きになった人はその気持ちを忘れるのだ。
私は同じクラスの佐藤くんを呼び出した。
眼帯を外して、佐藤くんのことを見つめる。
佐藤くんは私の目を見ながら「そんな目をしてたんだ」と言った。
それから「一体どうしたの?」と首を傾げる。
あれ、おかしい。
もしかして……目の力がきいてない?
佐藤くんは何も言わずに去っていった。
どうして……?
次の日、七宮くんが言った。
「佐藤にも眼帯を取って目を見せたんだって? どうして?」
七宮くんはそんなことを言って膨れている。
どうやら彼はまだ私のことを好いてくれているらしい。
私は家に帰った後、あの書物を読み返した。
すると、終わりだと思った書物には続きがあった。
そこには「目の力は運命の人と出会うとなくなってしまう」と書かれていた。
悩みから解放されたらしい女性は以前までの深刻そうな文体はどこへやら、浮かれた様子でそう簡単に書き綴っていた。
そういうことだったのか……。
私の代できちんと後世にこの特性のことを伝えておかないと、と私は思いながら、今何かを後世に残すならどういう方法がいいのだろうと考えを巡らせ始めた。
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