小さい頃から、お父さんの手帳が羨ましかった。
黒い革の手帳で、すごくかっこ良かった。
「この手帳はね、育てたんだよ」
お父さんが言うには、小さい頃から手帳をつけ続けていたらどんどん育ち、立派になったらしい。
厳格な父は怖いこともあったが、お父さんのような手帳が欲しいという私に一冊の手帳を買ってくれた。
でもそれは、お絵かき帳のようなペラペラの手帳で、私は「お父さんみたいなのがいい!」と駄々をこねた。
「きちんとつけ続けたらお父さんのみたいになるから」
そう言われた私は、毎日のように手帳に予定を書き込んだり日記を書き込んだりした。
すると、ペラペラだった手帳はやがて普通の大学ノートのようになった。
その頃には、お父さんの手帳に鍵がついた。
今思うと、家族に見せたくないことを書くことが多くなった時期だったりするのかな、と思う。
鍵付きの手帳を持ち歩くお父さんは、やっぱりかっこよかった。
お父さんの手帳はいつまでも私の憧れだった。
***
子供を連れて久しぶりに実家に帰る。
実家に来るのは、最近ではすっかりお盆や年末年始だけになってしまった。
子供を両親に見てもらって自分の部屋に荷物を置きに行くと、私の机の上にお父さんの手帳が置いてあった。
私の勉強机は、今はお父さんが使っているらしい。
お父さんの手帳は、鍵がなくなって、ぺらぺらの手帳になっていた。
もしかして、お父さん……?
私は嫌な予感を感じ、両親と子供の元に戻った。
しかし、なんのことはない、お父さんはただ丸くなっただけなのだ。
お父さんは子供を抱き上げ、「じいじでちゅよ〜」と相好を崩していた。
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