絶縁まんじゅう

ショートショート作品
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 お引越しの前日、お父さんがお母さんに「絶縁まんじゅう買った?」と聞きました。

 お母さんは「うん」と答えて荷造りを続けます。

 絶縁まんじゅうってなんだろうと思い、調べてみると”絶縁”とは縁を切るという意味の言葉でした。

 絶縁まんじゅうは引越しをする時にご近所の人に配るものなのかな。

 せっかく仲が良かったのに、なんだか嫌だなと私は思いました。

 お引越し先のお隣に美玲ちゃんという同い年の女の子が住んでいました。

 私はすぐに美玲ちゃんと仲良くなって、お互いの家を行き来するようになりました。

 ある日、美玲ちゃんの家に遊びに行くと美玲ちゃんとお母さんがおまんじゅうを食べていました。

 それはあの「絶縁まんじゅう」でした。

「佐奈ちゃんのお母さんからいただいたおまんじゅうよ。佐奈ちゃんも食べる?」

 美玲ちゃんのお母さんにそう聞かれた私は「なんで?」と悲しい気持ちになりました。

 せっかく美玲ちゃんと仲良くなれたのに。どうしてお母さんは絶縁まんじゅうを美玲ちゃんのお母さんに渡したのだろう。

 私はその場でわぁーーーっと泣いてしまいました。

 美玲ちゃんのお母さんが驚いてお母さんを呼びました。

 やってきたお母さんが「どうしたの、佐奈」と言いながら私のことを抱きしめます。

 私が泣きながら説明すると、お母さんは笑いました。

「違うのよ、佐奈。このおまんじゅうの”絶縁”というのは絶縁体というもののことなの。そうねぇ、最近はないけど、昔の電化製品にはそういうのがついていて、それを引き抜くと使えるようになったのよ。つまりこのおまんじゅうを食べ終わってからが本当によろしくお願いしますっていう意味なの。お引越し前の人たちには絶縁まんじゅうじゃなくて復縁まんじゅうをお渡ししたのよ」

 お母さんのそんな話を聞いた私はほっとして泣き止みました。

 そして私はすぐ美玲ちゃんと仲良くなりたいからと言って美玲ちゃんの家にあったおまんじゅうを3つも食べて、みんなに笑われたのでした。

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