私は植物学者であるが、世間から認められることはなかった。
しかし私は、密かにあるものを育てていた。
誰からも賞賛されなかった私のためだけに研究したものだ。
研究所の大きな一室に、ざわざわとそれは生えていた。
これは腕である。
肘から上の腕が、天に向かって伸び、揺れている。
私はその中に飛び込んだ。
腕たちはそんな私を受け止め、胴上げをしてくれた。
胴上げをするためだけに生まれてきたこの腕たちが、私の植物学者としての唯一の成果だ。
胴上げされながら私は考える。
屋内だけではやはり味気ない。
一度、屋外で思う存分胴上げされてみたい。
しかしこの腕たちの繁殖力はすごすぎるので、いささか不安だ。
どうする。
迷ったが、誘惑には勝てなかった。
私は自分の家の庭に腕を二本植えた。
腕は一本では繁殖できない。
二本を隣り合わせると、拍手をして種をまきちらし、繁殖するのだ。
その日の夜。
ふいに、外から気が狂ったような拍手の音が聞こえてきた。
拍手は鳴り止まず、どんどんどんどん膨れあがっていく。
やがて拍手は耳をつんざくような大音量になり、恐ろしくなった私は、布団をかぶって震えた。
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