監督ラケット

ショートショート作品
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 私は厳しい監督の元で卓球を習っていた。

 監督は卓球のこととなると厳しいが、それ以外では優しいおじいさんだった。

 監督は元料理人らしく、老後の趣味で卓球を始めて熱中したのだという。

 監督はかなりお年を召されていて、私が卓球を習い始めてから一年後に亡くなってしまった。

 監督がいなくなった後も、卓球をしているとどこかからこんな声が聞こえてくるようになった。

「回転見ろ!」

「バックハンド使え!」

 まさか。

 でも、この声は本当に監督らしい。

 なぜなら、試合のときは何も言わなくなり、黙るからだ。

 あれから私は卓球をやめたが、今はまた別の声が聞こえている。

 中華鍋を振るう度に「スナップきかせて!」とうるさいのだ。

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