不安レター

ショートショート作品
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 ある小説家の元に一人の女の子からファンレターが届いた。

 ファンレターなどもらったことがなかった小説家は舞い上がった。

 しかしよくよく中身を読んでみると、それは女の子が自分の不安を書き綴っただけの”不安レター”だった。

 小説家はため息をつきながら返事を書いた。

 すると、女の子からお礼の言葉と共にまた不安レターが届いた。

 小説家はまた律儀にも返事を返した。

 二人のそんなやりとりが続くと、次第に打ち解けた女の子は冗談も書くようになった。

 小説家の新刊が出る度に「先生の新刊が売れるか不安です」と書いたのだ。

 そんな冗談を見て小説家はいつも「やかましい!」と笑うのであった。

 長く続いたそんなやり取りを経て、女の子が不安レターの中にこんなことを書いた。

「先生に黙っていたことがあるんです」

 女の子はそう書いて、実は自分も小説家を目指し小説を書いていたことを告白した。

 そしてその結果、デビューが決まったのだと。

 しかし女の子は自分の本がちゃんと売れるか不安になっていた。

 小説家は「自分に自信を持ちなさい」と返事に書いた。

 その年、二つのベストセラー本が誕生した。

 それは異なる作者によって書かれた本で、題名は「私の不安」と「励まし」だった。

 小説家がその作品を書けたのは、女の子のおかげだった。

 実は小説家も、自分の本が出る度に毎回不安を感じていたのだ。

 ちゃんと売れるのだろうか。

 しかしそんな不安を女の子の「先生の新刊が売れるか不安です」という冗談が吹き飛ばしてくれていたのである。

 小説家の書いた本の題名は「私の不安」。そして女の子のデビュー作は「励まし」という題名であった。

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