私はある変わった不動産屋さんにやってきた。
ここで紹介してもらえる物件は全部どこか”変”らしい。
そんな不動産屋さんに紹介してもらった物件の中で私が興味を持ったのは「能力型格安物件」というものだった。
その物件は家賃がとても安いのだが、入居の際にあるテストに合格しなければならない。
普通の、家賃の支払い能力や信用情報に関する審査などではない。
例えば、ある物件では脚力が試されるそうだ。
その物件は小さな山の上にあって、その物件までの道は車も入れないので毎回山に登らなければならない。
だから脚力が必要、というわけだ。
他には腕力が試される物件などもある。
扉や備え付けの備品がものすごく重たいらしい。
これは強盗対策とのことだ。
他にも視力や聴覚が求められる物件もある。
これらはある資産家が面白がって作った物件なのだと不動産屋さんは説明してくれた。
紹介してもらった物件の中で私は脚力が求められる物件のテストに挑戦することにした。
家賃は月になんと三千円。だがその物件は、車も入れない細い路地の先にあって、しかもその路地がものすごい上り坂なのだ。
私は万全の準備をして、テストに挑んだ。
しかし……落ちてしまった。
落ち込む私を不動産屋さんが「お客様なら合格できますよ」と励ましてくれる。
不動産屋さんにおだてられた私はトレーニングを重ね、一ヶ月後にもう一度テストを受けた。
そして見事合格したのである！
厳しいテストを経て入居した私は家賃三千円とは思えない立派な部屋に満足した。
そんな私に不動産屋さんが言った。
「事前に説明をいたしましたが、このお部屋では毎年入居資格の再テストがあります。そのテストに落ちると退去していただくことになりますのでくれぐれもお気をつけください」
「分かりました。ところで……」
私は前から思っていたことを聞いてみることにした。
「不動産屋さんも能力型格安物件に住んでいるでしょ？」
不動産屋さんはにこりと笑って答えた。
「よく分かりましたね。私が今住んでいる物件には毎日のように勧誘の営業が来ます。それもかなりしつこい部類の。さらに私の住んでいる部屋では毎月家賃上げの交渉があります。それらをすべてかわす”話術”。それが私に求められる能力です」
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