毒よせカメラ

ショートショート作品
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 私は古道具屋で店番をしていた。

 すると、男性が一人やってきて「これってどういうものですか」と私に尋ねた。

 男性の元に行くと、そこには「毒よせのカメラ」という札がかけられていた。

 えぇと、どういうものだっけ。

 正直、品物が多すぎて私も把握しきれていない。

 おそらくおばあちゃんの時代からあるものだろう。かなり古い。

 私は男性に言った。

「確か……撮影した人に影響を及ぼすものだったと思います。呪いの一種ですね」

「へぇ。じゃあこれ、ください」

「あ、えぇと、すみません。ちょっと売るわけには……」

 カメラを使ってこの人に悪影響があっても嫌なので私は売らないことにした。

 男性は「売ってください」と粘ったが、とうとう諦めて帰っていった。

 その日の夜。

 店に泥棒が入った。

 泥棒はあの「毒よせカメラ」を盗んで行った。

 数日後、やってきた男性を見て、私は思わず「あ!」と大声をあげた。

 私が何かを言う前に、男性が言った。

「これ、お返しします」

 憔悴しきった様子の男性がカメラを差し出す。

「もしかして……使ったのですか」

「はい」

 男性はぽつりぽつりと顛末を話し始めた。

 男性は付き合っている彼女と別れたいと思っていた。

 しかしそれを彼女に言うと大泣きされてしまった。

 じゃあもういっそ心中をしようと、この毒よせカメラで彼女と自分の写真を撮った。

 男性は次第に自責の念にかられるようになり、追い詰められた。

 とうの彼女は「田舎のおばあちゃんがイチゴを送ってきてくれたの。食べる?」なんて無邪気に男性に接してきたそうだ。

「でも……結局なんともなかったんですよ」

「どういうことですか……?」

「こういうことですよ」

 そう言って男性は手に持っていた紙袋を差し出した。

「隣の人からもらったんです。こんなには食べ切れないので、店主さんもどうぞ」

 男性はそう言って紙袋の中身を私に手渡した。

 それは……たくさんのイチゴだった。

「カメラはお返しします」

 男性はそう言って店を出ていった。

 まさか……!

 カメラが元あった位置に行って、プレートを見る。

「ん〜? ……あ!」

 よく見ると、そこには「毒よせカメラ」ではなく「苺よせカメラ」と書いてあった。

 そういうことだったのか。

 何にせよ、男性とその彼女が無事でよかった。

 男性からもらったイチゴは甘くて美味しかった。

 もらった分をぺらりと平らげた私は、苺よせカメラで自撮りをした。

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