朝、私はまだ寝ぼけ眼でトースターにパンをセットした。
コーヒーを入れてテーブルでぼんやりしていると、やがてポンッと音を立ててトーストが出来上がった。
どれどれ、今日はどんなかな。
出来上がったトーストを見てみると、茶色い焦げ目で「行ってくるよ〜」という文字が書かれていた。
これは「おはようトースター」というもので、予めセットしておいたメッセージをトーストの焦げ目で再現できるものなのだ。
パン党の彼が買ってきた面白家電である。
いつも私より先に会社に行く彼は、こうしてメッセージをセットしておいてくれる。
このトースターは、様々なメッセージをトーストしてきた。
「おはよう」
「冷蔵庫においしいウインナーがあるよ」
「昨日はごめん」なんてときもあった。
私はメッセージの印字されたトーストをかじった。
パン党の彼が厳選したパンも美味しいけど、たまにはご飯も食べたいなぁ。
後日、彼に相談すると、彼は「ご飯? いいよ!」と言って炊飯器を買ってきた。
彼は家電は絶対に自分で選びたい、家電男子なのだ。
私は興味ないからちょうどいい。
彼いわく、この炊飯器も、お米が炊けるとメッセージが浮き出るそうだ。
翌朝、私の起床時間に合わせて彼が炊飯器をセットしておいてくれた。
彼はやはり朝はパンがいいらしく、パンを食べて出勤していったようだ。
どれどれ。
炊飯器を開けて、私は思わず笑ってしまった。
どうやらトースターよりメッセージ機能の需要がないらしく、炊飯器はまだ一文字しか表せないらしい。
炊きたての米には米の凹凸で、でかでかと「愛」と書かれていた。
これから毎日、どんな一文字が見れるだろう。
「怒」なんて日もあるかもしれない。
でも、それも二人の人生だ。
「いただきまーす」
私は久しぶりのご飯に舌鼓を打った。
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