僕はその日、一人暮らしの部屋を探しに不動産屋に来ていた。
希望の家賃と条件を不動産屋さんに伝えたのだけれど不動産屋さんは「うーん」とうなりながらパソコンに向かっている。
中々いい物件がないようだ。
僕はこっそりとパソコンの画面を覗き込んだ。
「あ、それいいじゃないですか!」
僕はパソコンの画面を指差して言った。
その部屋は家賃が二万円と、ものすごく安かった。
大学からも近いし、駅までもすぐだ。近くにコンビニもあるし。
間取りは……1R〜10LDKと書いてある。どういうことだ?
「あ〜ここはですね……」
不動産屋さんはパソコン画面を僕にも見えやすいようにしてから言った。
「間取りが変化する部屋なんです」
「へ?」
「ここはやめておいたほうがいいですよ」
「あ、でも……家賃が安いからちょっと気になります」
「この物件はですね、間取りが毎日コロコロ代わるんです。ワンルームから最大10LDKまで。そんな変な部屋なんですよ」
「へぇ……。でも最低ワンルームなんですよね」
「はい」
「じゃあここにします!」
「いやぁ……やめた方がいいと思いますが」
そう言ってしぶる不動産屋さんを説得して僕は入居申込書を書いた。
「あの、くれぐれも気をつけてくださいね。家具とかは最小限にして、誰かを泊めたりする時は注意してください」
「はい!」
そう返事をしながら、僕は新しい部屋が決まるワクワク感を感じていた。
引っ越しが完了し、僕はその部屋に住み始めた。
なるほど、確かにそこはおかしな部屋だった。
毎日、夜寝てから起きると間取りが変化しているのだ。
まぁでも、最低ワンルームだと思えばそこまで不便はない。
ある日、大学で出来た友達が急に僕の部屋に遊びに来た。
「おい、狭いとか言ってたけど広いじゃん!」
友達は勝手に部屋を探検し始めた。
今日は5LDKなので確かに広いのである。
「いや、でも違うんだって」
僕はそう言ったのだが、友達はすっかりテンションが上がっていて、勝手に他の友達も部屋に呼んだ。
「おい、今日鍋しよう、鍋!」
そんな風に、勝手に鍋会を始めてしまうのだった。
鍋会は夜遅くまで続いた。
「おい、おまえら帰れよ!」
僕はそう言って友達たちを帰そうとしたが、友達は全然帰ってくれなかった。
「いいだろ、今日は泊めてくれよ〜」
とか言いながらその辺で雑魚寝を始めてしまう。
僕はなんとかみんなを運び出そうとしたが、無理だった。
「あー、もう! どうなっても知らねーぞ!」
僕はそう言って自分のベッドに潜り込んだ。
翌朝。
僕が起きると、間取りがワンルームに変化していた。
友達の姿はない。
どうやら僕の知らないうちに帰ったようだ。
ほっとしたが、昨日使った鍋がそのままになっていたりゴミが散乱している部屋を見て次第に腹が立ってきた。
スマホを取り出す。
「帰るなら一言言っていけよ!」
友達にそうメッセージを送ると、壁の中から「ピロリン」と音が……。
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