息子の帰郷

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 息子が亡くなったのは一年前になります。

 交通事故でした。

 ある日、私は息子の靴がなくなっていることに気づきました。

 確かに玄関に置いてあったはずの息子の靴がなくなっているのです。

 息子の遺品ですから大切に取っておこうと考えていたのでショックでした。

 しかし、そのなくなった靴が夏頃帰ってきたのです。

 スタスタと靴だけが歩いて我が家にやってきました。

 靴はいつのまにかまたなくなっていて、今度は年末に帰ってきました。

 そして年始にまたいなくなっていたのです。

 私は、息子の靴が帰ってくるたびに洗ってやります。

 たまにすごく汚れていることがあるのです。

 もしかして、靴だけで動いているので気味悪がられているのかもしれません。

 そうこうしているうちに、息子の靴がだいぶ古くなったので買い替えました。

 すると今度は新しい靴が出かけて行きました。

 息子は日本を一周するのが夢だと言っていたので、今こそそれを叶えようとしているのかもしれません。

 ですから、息子の靴が一人でに歩いているのを見かけたら、どうかそっとしておいてやってください。

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