私は丘の上にあるコヤギ博士の研究所へとやってきた。
いつも鍵が開けっ放しのドアを開けると、コヤギ博士がおかしな踊りを踊っていた。
腰をくねくねと回しながら踊る博士。
おかしくなってしまったのだろうか……!?
「は、博士、気を確かに」
私が声をかけると、コヤギ博士が振り向いて言った。
「おぉ、君か! これはな、洗顔フォームだよ」
やはりおかしくなってしまったのだろうか……。
「博士、洗顔フォームというのは朝、顔を洗う時に……」
「違う違う! 洗う顔の洗顔ではなく、選ぶ眼の、選眼フォームだ! 選球眼、とか言うだろう。人体の構造を研究していて思いついたんだがね、この選眼フォームを踊ると、ボールの変化球が分かるようになるんだよ!」
物は試し、ということで私とコヤギ博士は町内で開催されていた草野球に参加した。
町内一のピッチャーがマウンドに立つ。
彼はフォークを得意とする選手だ。
コヤギ博士がバッターボックスに立って、例のおかしな踊り、選眼フォームを踊る。
ピッチャーがボールを投げた。
コヤギ博士はそのボールを打って、それから打順が来るたびにすこんすこん打った。
「彼お得意の変化球がいつ来るか分かるからな」
コヤギ博士はそう言って笑った。
それから私はコヤギ博士に選眼フォームを教えてもらい、家で練習をすることにしたのである。
私が家で選眼フォームの練習をしていると、コヤギ博士から電話がかかってきた。
「選眼フォームの練習を今すぐやめたまえ!」
「え? どうしてですか」
「さっき推理小説を読んでいたんだがね、すぐ犯人が分かってしまったんだ。つまり、小説の登場人物がどこで”変化”したのか、分かるようになってしまったんだよ!」
それを聞いて私は、もしかして私にもその症状は出ているかも……と思った。
電話をしながら窓の外を見ると、女性が一人、道を歩いていた。
女性を見ながら私は、彼女はもうすぐ右に曲がりそうだな、と思った。
すると彼女は、私の予想通り道を右に曲がったのである……。
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