昔から、私にはいつも聞こえる足音があった。
その足音が聞こえると、いつもちょっといいことがあるのだ。
だから基本的にはいい足音のはずなのだけれど、正直に言えば、ちょっと怖かった。
もしかしたら幽霊の足音なのかも……なんて思っていたから。
ある日、一人の男の人が私の前に現れた。
仕事の取引先の人だった。
「行きましょうか」
そう言って私を案内する男の人の足音は、あの足音だった。
私が男の人の後ろをついていくと、男の人がふいに立ち止まった。
「何か?」
尋ねると、男の人は「いいえ」とまた歩き始めた。
しばらくして、私はその男の人とお付き合いを始めて、まもなく結婚した。
彼は「あなたの足音を聞いたことがあったのです」と、私にプロポーズをした。
彼によれば、その足音が聞こえるたびに、いいことがあったらしい。
生き霊なんて言葉あるけど、足音が私たちを引き寄せたのかもしれない。
今は、お互いの心地いい足音を聞きながら暮らしている。
コメント