深海のスープ

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 ある男が出張先でイタリア料理を食べた。

 その店で出てきたスープが絶品で、男はシェフに「是非レシピを教えて下さい」と言った。

 するとシェフはこう答えた。

「ダメです」

「頼む、この通りだ」

「ダメです」

 男は店を出たが、あのスープの味が舌から離れない。

 どうしてもスープのレシピを知りたいと思った男は、店の周りをうろうろと歩き回った。

 すると、店の裏口からポンプのようなものが伸びて、そのポンプが海に向かって伸びているのを見つけた。

「見られてしまったら仕方ありませんね」

 いつの間にかシェフが背後に立っていた。

「あのスープは、深海から汲み上げているんですよ。深海から湧き出る極上のスープを、薄めてお客様にお出ししているんです」

 それを聞いて男はにやりと笑った。

 数カ月後、男は「深海のスープ」という缶詰のスープを発売した。

 それはあのイタリア料理店で聞いた深海スープの原液であった。

 薄めてもあれだけ美味しかったのだから原液だったらもっと売れるはず、という男の目論見は成功し、缶詰のスープは飛ぶように売れた。

 男の立ち上げた缶詰メーカーは世界的に有名なブランドに成長し、男はほくそ笑んだ。

 しかし、ある時、深海のスープが枯渇してしまった。

 男が一気に汲み上げすぎたのである。

 それから一年後。

 海から魚やその他魚介類の姿が消えた。

 昔、海がそう呼ばれたように、深海のスープはあらゆる生命を生み出している、まさに生命のスープだったのだ。

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