私の家には貝のお財布がある。
二枚貝のお財布だ。
貝のお財布の中にはお父さんが入れてくれた小銭がたくさん入っている。
貝のお財布からはいくらお金を取ってもいい。
ただし、取れれば、だけど。
貝のお財布は、必要な時しかお金が取れないようになっている。
例えば、お菓子を買いたいから一回だけ、とかならいいけれど、二回目は取れないとか。
無理やり取ろうとすると、貝がバチンと閉じて手を挟まれてしまう。
今日は一回お菓子を買ったから無理かもなぁ、と思いつつ貝のお財布に手を伸ばすと、やっぱりバチンと閉じてしまった。
私が悔しがっていると、いつの間にかやってきていたお母さんが言った。
「お父さんもね、昔取れなくて悔しがってたよ」
「え、大人なのにお小遣いが欲しかったの?」
「違うの。この貝は、もともと指輪の入れ物でね。この貝の中に素敵な指輪が入っていたんだけど、資格がある人しか取れない仕組みになってたの。だから、お父さんは何度も何度も挑戦して、この指輪を取ってくれたんだ」
お母さんがそう言って薬指の指輪を見せてくれた。
私も、将来そんなことをしてくれる人に出会えたらいいな。
夜、帰ってきたお父さんに指輪のことを聞いたら、顔を真っ赤にして貝のように口を閉ざしてしまった。
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