「わ、これすごいね〜」
亜希は隆太の家で歓声をあげた。
隆太の家には、日本の形をした模型が4つあった。
そのうちひとつには桜があしらわれていて、もう一つには雪の結晶が、とそれらは一つ一つ四季を表しているのだった。
亜希と隆太はもうすぐ付き合って一年になるが、今日初めて亜希は隆太の家に上がったのだった。
「これがあるから恥ずかしくて」
隆太がお茶を用意しながら言う。
「なんで恥ずかしがるのよ〜。よくできてるじゃん」
亜希が隆太を褒める。
しばらく四季の模型を眺めていた亜希は「あれっ」とあるものに気がついた。
四季の模型に隠れていたが、戸棚の奥に人間の模型がそれぞれ4つあったのだ。
隆太がしまった、という顔をする。
しばらく人間の模型を眺めていた亜希が「あ!」と声をあげる。
「これ……私!?」
隆太は観念したように「う、うん……」と言って頭をポリポリと掻いた。
その人間の模型は確かに亜希だった。
だが全て同じ顔をしていて、着ている服だけが違う。
春の日本の模型の隣には春の服を着た亜希、夏の模型の隣には夏服を着た亜希、といった具合である。
「みんな同じ顔してるね〜」
「亜希はいつも素敵だからさ」
「何言ってんの!」
そう言いながら隆太をパシンと叩いた亜希だったが、まんざらでもないらしい。
隆太が「じゃあご飯の準備するよ」と言って台所に向かった。
一時間後、隆太の作ったご飯を食べながら亜希が言った。
「あれ、本当にすごいよね。精巧に作られててさぁ」
亜希は不自然な笑顔でそう言った。
「本当にすごいよねぇ。ずっと前から作ってたの?」
「う、うん……」
隆太は話題をそらそうとするように、慌てて言った。
「あの、ごはん、おかわりいる?」
「ううん、大丈夫。ありがと。でも本当にすごいよねぇ。本当に精巧に作られてるもん」
亜希は隆太に、にこっと笑いかけた。
「隆太がご飯を作ってくれている時にね、私、あの自分の模型を持ってみたんだ。勝手に触っちゃってごめんね。服とかどうなってるのかよく見たかったから。そうしたらさぁ、なぜか秋の模型だけ重かったんだけど、なんでかなぁ?」
笑顔のままでそう言う亜希を見て、隆太が箸を置いて「ごめん」と謝る。
どうやらその模型は精巧に作られすぎていたらしい。
天高く、馬肥ゆる秋……。
コメント