彼女が初めてそのことに気づいたのは、お母さんに髪を切ってもらった時だった。
切ったあとの髪が光ったのである。
お母さんは、すごい、とはしゃいだが、彼女は嫌だったらしい。
彼女は長い間お母さんに髪を切ってもらっていたが、ずっと切ってもらうわけにもいかず、初めて美容室にやってきた。
その時に僕が彼女のカットを担当した。
彼女の髪を切ると、切った後の髪が光った。
僕は思わず彼女の顔を見た。
すると彼女は、失望したような、悲しいような顔をしていた。
僕は平静を装い、そのことには触れずに髪を切り続けた。
だが、髪を掃除しにやってきたアシスタントの子が「え、すごい! どうして!?」と騒いでしまった。
僕はその子を嗜め、自分で髪の掃除をした。
会計をする時、僕は思い切って彼女に言った。
「よろしければ出張でご自宅まで髪を切りに伺いますが」
それから僕は、ずっと彼女の髪を切っている。
ずっと、ずっと。
僕が彼女に結婚を申し込んだ時、彼女が一つだけ条件をつけた。
「約束を守ってくれてありがとう」
そう言って微笑んだ彼女の姿が、瞼の裏に思い浮かぶ。
彼女は、僕が結婚を申し込んだあの日、僕にこう言ったのだ。
「私より一日でもいいから長生きをしてくれること。そうしないと、私は誰に髪を切って貰えばいいの」
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