私の村には嵐がよくやってきた。
だがそれは普通の嵐ではない。
動物や虫などの嵐だ。
嵐がやってくると、村の見張り台にいる嵐守り(らんもり)がみんなに知らせる。
例えばよくやってきたのは「馬嵐」だ。
馬嵐は強風を伴い、家々をなぎ倒す。
だから早く行き去ってくれるように好物である人参を軒先に吊るしておくのだ。
すると嵐は暴れることなくすぐに過ぎ去ってくれる。
時には「猫嵐」なんていう嵐もやってきた。
猫嵐が過ぎ去った後は、そこここに爪痕が残ってしまう。
だからこちらも軒先に魚を吊るしておいたりして早く過ぎ去ってもらうようにするのであった。
そんなおかしな村で育った私は、東京に出て、東京の嵐が動物や虫の特徴を持っていないことを知った。
今、私は彼と一緒に村に向かう鈍行列車に乗っている。
私は車内で彼に嵐のことを話した。
彼なら引いたり幻滅したりしないと思ったからだ。
私の話を聞いた彼は、やっぱり「面白いね! そんな嵐、俺も見てみたいなぁ」なんて言っていた。
そんな彼だったが、村に到着して早々、嵐に見舞われることになった。
それは「よく来たわねぇ! おなか空いてない?」「お、泣き虫のミッコが彼氏を連れてきたな。おにいちゃん、美味しいジビエ料理があるよ」なんていう、村の人達による歓迎の嵐だった。
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